新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

242: ネッタイヒイラギ

スズキ目スズキ亜目ヒイラギ科キビレヒイラギ属
学名:Photopectoralis bindus (Valenciennes)
英名:Orangefin ponyfish, Deep pugnose pony, Orange-tipped ponyfish, Orangefin slipmouth, Silverbelly, Slimy, Slipmouth

沖縄名エバ。全長約7cmの個体(手に入れた中では一番大きかったもの)から摘出した「魚のサカナ」。写真左の右の標本は擬鎖骨付きで調製したもので、擬鎖骨の一部に大きな孔が開いているのが確認できる。写真右は同サイズの別個体から摘出した標本の拡大図。これまでに紹介したヒイラギ科の「魚のサカナ」も左右方向に長い形をしていたが、「熱帯柊魚(鮗、柊、疼木)のネッタイヒイラギ」は、肩甲骨、烏口骨本体、『嘴』部、更には肩甲骨孔まで全てのパーツが上下に圧縮されたように横長であるため、当然「魚のサカナ」全体としても非常に細長い(決して斜め下方向から撮影したものではない!)。その他の特徴としては、1)烏口骨上方の『背鰭』部の前縁は丸みを帯びること、2)烏口骨の『嘴』部の下側にカーテン状の構造は出来ないが、逆に湾入も非常に浅いこと、3)『嘴』部の先端の擬鎖骨と接するところが「足場」のように横に広がらないことなどが挙げられる。



「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」を開き、1)両顎に大きい犬歯状歯がない(写真下段左)、2)口は前方に伸出する(写真中段左)、3)頭長は体高より著しく短い、4)頬に鱗がない、5)頭部に暗色斑がない(写真中段左)、6)体側前半上部は有鱗(写真中段右)、7)顎歯は1列の円錐歯からなる(写真下段左)などの形質を確認してネッタイヒイラギであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』によると、背鰭と臀鰭棘条部に黄色〜橙色の斑紋がある(写真中段右)こと、体側上方(背面)に虫食い状の斑紋がある(写真下段右/体の真横からは観察しにくいので斜め上方向から撮影)こともネッタイヒイラギの特徴となっている。ただしこの個体は「検索」にある「体が卵形で体高は体長の50%以上」という『鍵』を明らかに満たしていない、、、もしかしたらキビレヒイラギの可能性も?(下記【注】参照)

泊いゆまち内・中真で購入(発泡トレイ一杯で300円/写真下左)。非常に新鮮だったが、最大の個体でも全長7cm程だったので、今回はそのまま衣をつけて唐揚げに。小魚の割に旨味もあり酒のアテには最高の一品。ただ口の中で多少背鰭/腹鰭の棘が当たるようにも思われたので、背鰭/腹鰭だけはキッチンバサミなどで切り落としておいた方が良いかも知れない。

【注】「日本産魚類検索」および「新訂原色魚類大圖鑑」ではネッタイヒイラギの学名が Leiognathus bindus となっているが、最近になってヒイラギ科が新たに7属に再分類され、新称キビレヒイラギ属 Photopectoralis sp. が提唱されたため、この学名は現在ではシノニムとなっている。ちなみに現時点で確認されている日本近海に生息するキビレヒイラギ属の魚は、ネッタイヒイラギ Photopectoralis bindus (Valenciennes) とキビレヒイラギ Photopectoralis aureus (Abe and Haneda) の二種であるとのこと。残念ながら「日本産魚類検索第2版」にも「新訂原色魚類大圖鑑」にもキビレヒイラギが掲載されていないが、FishBaseのエントリー(何故かまだ Leiognathus aureus の表記のままで、Common names欄に"Kibire-hiiragi"もない)と "Main reference" である Kimura at al. Ichthyol Res (2003) 50: 221–232 (PDFのダウンロードはこちらから)に当たってみると、「眼の下縁から下顎の関節の間に黒線が存在する」というキビレヒイラギ類の最大の特徴が今回の魚には見られず、逆に同論文に記載されている、1)丸い体型(同論文に掲載されている「タイプ標本」の写真と比べると、明らかに体高があり丸みを帯びている)、2)顎と頬の間の膜の色が薄め(=色素の沈着があまりない/上の写真中段左)、3)背鰭棘条部の先端にオレンジ色の斑点がある(写真上右の緑矢印/鰭膜は破れてしまっているが、黄帯の上にオレンジ色斑点の一部が確認できる)というネッタイヒイラギの特徴が確認できる。以上の事実から総合的に判断して、今回の魚はネッタイヒイラギであるとした。間違っているようならば是非ご指摘下さい。