新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

258: ウッカリカサゴ

スズキ目カサゴ亜目メバルカサゴ
学名:Sebastiscus tertius (Barsukov and Chen)
英名:Absent-minded scorpionfish (但し「新訂原色魚類大圖鑑」、FishBaseともに英名表記なし)

長崎産の全長約23cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。「うっかり笠子のウッカリカサゴ」は、全体的にフサカサゴ科の「魚のサカナ」の基本形だが、やはり極めて近い種であるカサゴのものと酷似している。強いて相違点を挙げれば、肩甲骨孔の大きさが多少小さめで、肩甲骨/烏口骨本体の『体高』がある程度高めであるが、実際のところ「ほぼ同じ形である」としても差し支えはないはず。



店頭で見た時にウッカリカサゴであることをほぼ確信したが、念のため「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」を開き、1)側線は溝状でない、2)胸鰭に遊離軟条も欠刻もない、3)胸鰭も背鰭も普通の大きさ、4)頬に棘がない、5)背鰭は12棘12軟条、6)胸鰭上半部の後縁は裁形、7)尾鰭後縁は丸い、8)胸鰭腋部に皮弁がない、9)頬部に棘がない、10)体に黄色の虫食い状斑紋がない、11)側線上方にも暗色か赤褐色の明瞭な縁取りのある円形小白点がある(カサゴの白斑には縁取りがない)、12)胸鰭は19軟条(写真中段右/一番左に親指で半分隠れている軟条があることに注意。カサゴでは、ほとんどの個体が18軟条)などの形質を確認。今回の魚はウッカリカサゴであると総合的に判断した。

カサゴと区別するためには、上の形質11)と12)、およびウッカリカサゴの方が赤みの強い明るめの体色である傾向があることに注目することになるが、暗い体色のウッカリカサゴや、「同定の鍵」の一つである「胸鰭軟条数」にばらつきがあるカサゴウッカリカサゴが比率的には少ないながらも見つかっている(下記の【文献2】のデータでは、軟条数19のカサゴが47個体中1個体[2.1%]、軟条数18のウッカリカサゴが41個体中6個体[14.6%]いたとのこと)など、外見から完璧に同定することが困難な個体も存在する模様。

京都駅にあるJR京都伊勢丹地下の鮮魚コーナーで購入(780円/匹)。店頭表示は、九州でのカサゴ類の総称である「あらかぶ」。今回は半身は刺身に、残りは煮付けに。刺身にすると、キメが細かいしっとりした良好な身質。脂から来ると思われる甘味は感じるものの、残念ながら旨味はそれほどでもない。もちろん不味くはないのだが、正直物足りない感じであった(但し、同時に食したのが、前のエントリーで紹介した旨味たっぷりのキツネダイの刺身であったことが影響した可能性も)。煮付けは、身離れが良いために食べやすく、また旨味もより立つ。実は煮付けもキツネダイと同時に食べたのだが、連れ合いと息子によれば「キツネダイよりウッカリカサゴの方が美味い」とのこと(ちなみに筆者の「煮付け評価」は、キツネダイ>ウッカリカサゴ)。


【参考写真】下の写真はカサゴのもの。体側の側線付近にある白班模様が縁取りされていないことに注目。


【注】筆者が理解しているところでは:1978年にBarsukovとChenが、長崎産の標本に基づき、それまで「カサゴ」としてまとめられていた沖合/深層型の種類が、実は Sebastiscusカサゴ)属の新種であったことをソ連の学術誌で発表した【文献1】(正確には、彼らはカサゴ属を「亜属」として扱っていたので、学名はSebastes tertiusとなっていた模様)。その後、故阿部宗明博士が「ウッカリカサゴ」という冗談のような和名を提唱(「うっかりしてカサゴと区別していなかった」からだそうで)。とはいうものの、この段階では、外形態からウッカリカサゴカサゴを簡便に区別する「鍵」が知られておらず、ウッカリカサゴの初記載から約20年間に渡り研究者や釣り人を悩ませてきた。それが、独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所の加藤雅也/時村宗春両氏によって、側線付近の白斑で見分けられることが1999年の日本魚類学会で発表され(その後2001年に報文【文献2】として出版)、ようやく誰でも簡単に区別できるようになった(上記したように「一部の紛らわしい個体を除いて」だが)、、、というのが「歴史的経緯」となる模様。また上記した英名 "Absent-minded scorpionfish" は【文献3】に記されている。

1)Baruskov, V. V. and Chen, L.. Review of the subgenus Sebastiscus (Sebastes, Scorpaenidae) with a description of a new species. J. Ichthyol., 18:179-193 (1978). (English translation from Russian/残念ながらネット上でPDF等は見つけられず:要確認)。
2)Katoh, M. and Tokimura, M.. Genetic and morphological identification of Sebastiscus tertius in the East China Sea (Scorpaeniformes: Scorpaenidae). Ichthyol. Res. 48: 247–255 (2001). 要旨および全文PDFダウンロード(後者は要アクセス権)はこちらから。
3)Poss, S. G. Scorpaenidae. p. 2291-2358. Carpenter, K. E. and V. H. Niem eds. The living marine resources of the western Central Pacific. Vol. 4 Bony fishes pt. 2. FAO, Rome (1999). 当該部分のPDFはこちらからダウンロード可能。