新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

275: オキアジ

スズキ目スズキ亜目アジ科アジ亜科オキアジ属
学名:Uraspis helvola (Forster)
英名:White-tongued crevalle [原], Cottonmouth jack, White mouth crevalle, Whitetongue jack, Whitemouth jack

地方名ベイケンエバ(室戸)、メッキノオバサン(和歌山)、ドロメッキ(ネット検索で引っ掛かるがどの地方で使われているかは不明)など。三重県産の全長約29cmの個体から摘出した左右の標本。左側の標本は、摘出した時には既に烏口骨の『嘴』部分の先が折れていた。写真右は、写真左の右側の標本を反対側から拡大して観察したもの。「沖鯵のオキアジ」は、三角形で先端が尖り気味の肩甲骨、余り高くない烏口骨の上方突起部(『背鰭』)、烏口骨下方のカーテン様構造など、文章にしてしまえば、個体サイズがあまり大型にならないアジ科のもので見られる特徴を共有していることになってしまうが、実際は左右方向に長く伸びた独特の形状。最も特徴的なのは、烏口骨の『嘴』の先端部分で、キール部分がそのまま棒状に突き出ている(この部分にだけ注目すればアジ科のものではアイブリのものに続いて2例目となるが、そもそもオキアジ/アイブリの「魚のサカナ」は全体的な形が余り似ていない)。またカーテン様構造の幅も比較的狭く、その下縁はあまりギザギザにならない。更にこの標本では上記したキールに近い部分に「成長線」と思われる曲線が幾つも観察できる。



「日本産魚類検索 第2版」の「鍵」を辿り、1)第2背鰭基部より後方の側線に稜鱗/ゼイゴがある(写真中段左)、2)脂瞼は未発達、3)背鰭棘は長く、棘間に鰓膜がある、4)腹鰭は短く、淡色(少なくとも濃黒色でない)、5)腹部に溝がない、6)舌、口腔上部・下部は白く、残りの部分は黒い(写真中段右/筆者はシャチの体色を想像した)、7)遊離臀鰭棘は皮下に埋没する、8)胸鰭基底と胸部の無鱗域(写真下段左/それぞれ1と2)は有鱗域(同/赤線で枠取り)に分断され不連続という形質などからオキアジであると判断。またオキアジは鰓耙も黒色(写真下段右)。このようなものは他で見た記憶がない(ただし鰓耙の計数時に見やすくて便利ではある)。

八王子綜合卸売協同組合の山光水産で購入(当日はキロ1000円/0.47kgで、店頭表示は「黒アジ」)。今回は刺身と潮汁に。刺身一切れを口にし、2度3度と咀嚼すると、上品な旨味成分が口の中いっぱいに広がる。繊細な口当たりの素晴らしい身質で、カンパチやヒラマサ等の「高級魚」と比較すると歯応えがほんの少し柔らかい印象はあるが、個人的には逆にそれが丁度良い位であるようにも感じた。連れ合い曰く「今まで刺身を色々食べた中で、余裕でベスト10、もしかしたらベスト3に入るかも」だそうだが、確かに絶品であることに異論はない。潮汁にしても旨味の量が半端でない。風味も上々で、文句なしの美味。もしもオキアジがもっとまとまって漁獲され、また「見た目」がもっと良ければ、キロ1,000円ではとても買えないものになるのでは?ちなみにこれまで食べたアジ科の魚の中ではカイワリが最も美味であると思っていたが、それに勝るとも劣らないもの。もし機会があったら、是非オキアジとカイワリを横に並べて食べ比べしてみたい。