新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

301: トゲカジカ

スズキ目カジカ亜目カジカ上科カジカ科ギスカジカ属
学名:Myoxocephalus polyacanthocephalus (Pallas)
英名:Great sculpin [原]

通名/地方名なべこわし(鍋壊し)、まかじか、やりかじか、なべかじか等。北海道産の全長約45cmの抱卵した雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。大きな射出骨付き。オキシドールによる脱色処理とエタノール固定後に撮影。「棘鰍のトゲカジカ」は、これまでに紹介してきた他のカジカ科の「魚のサカナ」の中で、全体的な形状や第1/第2射出骨の接線中間部に孔が開いていることも含めて、予想通り同じギスカジカ属のギスカジカオクカジカのものに酷似する。ただし、ギスカジカおよびオクカジカの標本では第4射出骨の後縁と烏口骨の『背鰭』部分の前縁が完全に接するのに対し、本稿のトゲカジカの標本では、第4射出骨と烏口骨の『背鰭』部分の間が少し湾入し隙間があるように見える(ただしこれが本当に「相違点」なのか、単なる標本調製時の問題なのかは今後要調査)。また烏口骨の本体中央部に孔は確認できなかった。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。全体に石灰化(骨化)の程度は低くないので、エタノール固定および乾燥後もシワシワにはならなかった。



以前から述べているように、カジカ科の魚はそもそも種類が多い上に、地方名も数多く存在し(それだけ身近な魚であったのだろうとは思われるが)、更には一つの地方名が複数の別の魚を指している場合もあるので要注意(=例えばトロ箱の「箱書」を鵜呑みにはできない)。ということで、今回も「日本産魚類検索 第2版」の同定の鍵を慎重に辿り、1)体側下部に斜めの鱗列なし、2)頭部背面には小さい骨質突起が密生し、小骨板に被われない(写真中段右)、3)前鰓蓋骨は最上棘が最大でまっすぐだが、著しく大きくない。その後端は鰓蓋後端を越えず、内側は鋸歯状でない、4)第1背鰭は9棘。各棘は鰭膜で連続し、第2背鰭と近接する、5)腹鰭は1棘3軟条で後端は肛門に達しない、6)側線鱗は皮下に埋没し、尾柄部まである、7)後頭部には鈍い骨質突起があり、総状の皮弁はない、8)下顎は上顎より前に出ない(写真中段左)、9)左右の鰓膜は癒合し、峡部を横切る皮褶を形成する、10)臀鰭に遊離棘なし、11)頭部は縦扁し(=平たく)、体は丸い、12)口は大きく、その後端が眼の後端を越える(写真中段左)、13)後頭部に皮弁はなく2対の痕跡的な棘がある(写真中段右)、14)尾鰭後縁は白い(写真下段左)、15)体側背面には単尖頭の微小な棘状変形鱗が散在する(写真下段右の赤丸内に注目)などの形質からトゲカジカであると判断。近縁のオクカジカとは形質14と15(オクカジカの尾鰭後縁は白くなく、体側背面には鋸歯縁をもつ円形の変形鱗が散在する)で、ギスカジカおよびシモフリカジカとは形質13(これら2種は、後頭部に棘がなく2対の皮弁がある。更に眼隔域が広く、腹面の斑紋が中央部付近まであればギスカジカ、眼隔域が狭く、腹面の斑紋が周辺部のみであればシモフリカジカとなる)で見分けることができる。

トゲカジカの背側にはオクカジカのような「白いラインがウネウネと動き回ったかのような模様」はなく、この個体では第1および第2背鰭の下の体側に暗色横帯が認められる(写真左)。また腹面は一様に白く、ギスカジカの腹面全体で見られた「派手な模様」はない(写真右)。

八王子総合卸売センター内、高野水産で購入(今回はキロ500円/1.3kg)。店頭表示は単に「カジカ」。外見からも長旅をしてきたことが明らかで、決して抜群の鮮度という訳ではなかったため、ブツ切りにして鍋の具材に。捌いている時にはカジカ類に特有の「香り」が漂っていた。やはり鮮度の問題が大きいのか、残念ながら鍋が壊れてしまう程の旨味はなかった(それでも少ない訳ではない)が、火を通してブリブリになった身の食感は鍋の材料としては結構なもの。なかなかの美味。今回筆者自身は諸事情により卵や肝を食べられなかったが、これらを食べた職場関係者によればなかなか美味かったとのこと。