新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

313: ウミタナゴ

スズキ目スズキ亜目ウミタナゴウミタナゴ
学名:Ditrema temminckii temminckii Bleeker
英名:Temminck's surfperch [原](但し「ウミタナゴ」1種とされていた時期の英名), Sea chub

青森県産の全長25cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」の標本。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から拡大して撮影。「海鱮(タナゴは魚へんに與)のウミタナゴ」は、予想通り極近縁種(亜種関係)であるマタナゴのものに酷似し、1)肩甲骨下部が比較的大きめな印象で、烏口骨本体下縁のラインより下方に膨出する、2)肩甲骨孔は「涙」型であることなど、些細な相違点しか認められない。また他のウミタナゴ科の「魚のサカナ」と同じく、烏口骨の『嘴』部分が途中で折れたかのように非常に短い。

上の写真2枚は、左側の標本を擬鎖骨に結合した状態で両側から撮影しておいたもの。マタナゴのものと同じように、「海鱮(タナゴは魚へんに與)のウミタナゴ」の烏口骨下縁にあるギザギザの形状は左右の標本間で異なるが、この部分は擬鎖骨とは結合しないため標本調製時にできてしまった違いである可能性は低い(写真左の中程左寄りに擬鎖骨から上方に伸びる平板状突起部分があるが、「魚のサカナ」とは面が違うため接しない)。

烏口骨の上方突起(『背鰭』)部の先端近くは針状に突出するが、左右の標本でその位置は多少異なる場合があることも確認。



従来は1種とされていた「ウミタナゴ」だが、2007年に「ウミタナゴ (Ditrema temminckii temminckii Bleeker)」「マタナゴ (Ditrema temminckii pacificum Katafuchi and Nakabo)」「アカタナゴ (Ditrema jordani Franz)」の3種(正確にはウミタナゴとマタナゴは亜種関係)に再分類された【参考文献】。そこでまずは「日本産魚類検索 第2版」を開き、1)背鰭は10棘22軟条、2)尾鰭先端は尖らない、3)臀鰭基部は黒くない(写真下段右)という形質から旧分類の「ウミタナゴ」へ辿り着くことを確認。更に【参考文献】に記載された「同定の鍵」を辿り、5)体の背側が青みがかかる、6)眼の下に2本の黒色斜帯がある(写真中段左)、7)鰭棘条部の遠位域に黒色帯がある(写真下段左)、8)背鰭および臀鰭の基部後縁は相対する、9)臀鰭基底に黒線がない(写真下段右)、10)前鰓蓋骨の後下縁の暗色斑に加えて、その前方にも目立つ暗色斑がある(=計2個の暗色斑/写真中段左)、11)腹鰭の第1棘と第2棘の間の鰭膜基底部に黒点がある(写真中段右)などの形質を確認しウミタナゴであると判断した。

上の写真2枚は同じパックの中に入っていたサイズが一回り小さい別個体のもの。前鰓蓋骨の暗色斑や腹鰭の模様の特徴から「ウミタナゴ」と同定される個体だが、背鰭棘条部の遠位部に黒色帯がないタイプ(写真右/【参考文献】によると、この黒色帯の有無はおよそ半々くらいであるらしい)。

魚喜日野店で購入(当日は大小3匹で200円)。表示は「たなご」。今回は定番の塩焼きに。身は少々水っぽく、かなり柔らかいが、上品な旨味があってなかなかの美味。


【注】「日本産魚類検索 全種の同定 第3版」では、ウミタナゴ類は「スズキ目スズキ亜目」として掲載されているが、Joseph S. Nelson「Fishes of the World, 4th Edition」(2006)では「スズキ目ベラ亜目」に分類されている。

【参考文献】Hiroshi Katafuchi and Tetsuji Nakabo, Revision of the East Asian genus Ditrema (Embiotocidae), with description of a new subspecies., Ichthyol. Res. 54: 350-366 (2007).

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【参考】ウミタナゴとマタナゴの見分け方

上記した通りウミタナゴとマタナゴは亜種関係にあり、外見も良く似ているために両者の見分けは中々難しい。下の写真は以前紹介した神奈川県産のマタナゴ(上段の2枚)と本稿のウミタナゴ(下段の2枚)を比較したもの。マタナゴにも前鰓蓋骨の後下縁に1暗色斑(三日月形)があるが、その前方には暗色斑がない(写真上段左/つまり1個のみ)、腹鰭の第1棘と第2棘の間の鰭膜に黒線があるが、鰭膜基底部に明瞭な黒点はない(写真上段右)ことで、本稿のウミタナゴと見分けることができる(ただしこれらの模様には多少の個体差があるらしいので念のため)。またウミタナゴは主に日本海に、マタナゴは主に太平洋に分布するので生息域が同定の際の良い判断材料になるとのこと(今回は青森県産であったためこの「鍵」は使えなかったが)。



マタナゴ


ウミタナゴ

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