新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

338: ヤイトハタ

スズキ目スズキ亜目ハタ科ハタ亜科ハタ族マハタ
学名:Epinephelus malabaricus (Bloch and Schneider)
英名:Malabar grouper, Greasy grouper, Blackspotted rockcod, Malabar reefcod, Speckled grouper(『新訂原色魚類大圖鑑』に英名記載なし)

地方名アーラーミーバイ/アーラミーバイ沖縄県)。沖縄産の全長約44cmの活け〆養殖個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本から射出骨を外す前に、反対側から撮影したもの。「灸羽太のヤイトハタ」は、一見してハタ科マハタ属の「魚のサカナ」であると判断できる形であるが、1)肩甲骨が涙型で大きい、2)烏口骨上方の突起(『背鰭』)部分の前縁が湾入する、3)烏口骨の『嘴』部分を縦走する筋ががっしり太いなどの特徴がある。

他のマハタ属の「魚のサカナ」では烏口骨の『背鰭』部分が湾曲しながら大きく立ち上がるものが多いが、「灸羽太のヤイトハタ」ではその湾曲がほとんどなく、どちらかと言えば平面に近い。



「日本産魚類検索 第2版」を開き、1)背鰭は11棘15軟条、2)臀鰭は3棘8軟条、3)背鰭棘条部は前方で少し高くなる、4)側線鱗管に放射状小管がない、5)尾鰭後縁は丸い(摺れてしまっているので確実ではないが「恐らく」)、6)頭部から体にかけて弧状の斑紋はない、7)頭部/体側部/尾柄部などの模様や鱗の色が、カケハシハタ/ナミハタ/ハクテンハタ/キジハタ/アカハタ/ホオスジハタ/シモフリハタ/オオスジハタ/クエに特徴的なものではない、8)体に5本の暗色横帯があるが不顕著、9)体側全体に瞳孔よりも小さい黒色の明瞭な暗色斑が散在し、これらの斑点は網目模様を形成しない(写真中段右)、10)体の背縁部に大きな黒斑がない(写真中段右)、11)体に白いまだら模様がある(写真中段右)などの形質から、ヤイトハタであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載された、12)眼隔域はやや隆起し、眼径より広い、13)口は大きく、上顎後端は眼の後縁下より後方に達する(写真中段左)、14)下顎側方歯は2列に並ぶ(写真下段右)、15)前鰓蓋骨縁辺に鋸歯があり、隅角部の鋸歯はやや肥大(写真中断左の赤丸)、16)下顎下面にも黒色斑が存在(写真下段左)などの特徴も確認した。また上顎の裏側にも黒色斑がある(写真下左)。ヤイトハタの鰓耙の根元には鋭利な棘が存在するので、下ろすときなどには要注意(写真下右の緑丸)。

2012年6月に八王子総合卸売センター内、高野水産で購入(当日はキロ1,300円/1.87kg)。沖縄ではこの15年ほどの間にヤイトハタの養殖が盛んになっており、実際約1年前に訪れた「ぎのわんゆいマルシェ」でも「活け」の養殖ヤイトハタが売られているのを目撃している。また近年では海面養殖だけでなく陸上養殖も試みられているとのこと。今回の個体は、写真からも分かる通り、養殖の網に摺れて各鰭がボロボロになっているだけでなく、表皮すらも所々剥がれてしまっているというかなり可哀想な状態であったが、その分キロ単価はかなり安価に抑えられていたもの。しばらく悩んだが、まあ個人レベルで味を確認し「魚のサカナ」を調製するには十分かと割り切って購入。まずは刺身(写真下左)。非常に脂がのっており、そこからくる甘味を強く感じる。程良い噛みごたえのある身を咀嚼していると、それに含まれる強力な旨味が口一杯に広がる。味も食感もまるで「昆布締め」の魚を食っているかのよう。味の奥の奥の方に多少クセのようなものを感じないでもなかったが、それでも非常に美味い。「あら」は中華風の蒸し物に(写真下右)。ネットリとした顔の回りの皮(唇を含む)、噛みごたえのある頬肉、旨味たっぷりの骨回りの肉などをたっぷり楽しんだ。こちらも非常に美味い。ただし次の日に残りの部分で同じように料理したものでは「クセ」が急に強くなった印象も。

【余談ながら】高級魚であるクエを養殖するにあたって、純系のクエでは稚魚の死亡率が高いために、成長がより早く稚魚の死亡率がより低い「ヤイトハタとクエの交雑種」の養殖がしばしば行われているとのこと。『游魚漫筆/クエ「その未来」』によると、このような交雑魚では「尾柄部では横帯で頭部に行くほど斜走帯になるというクエに特徴的な体側斑紋があり、頭部、特に頬部や鰓蓋にヤイトハタのような小黒点がちらばる」という特徴があるそうだが、切り身になってしまえば純系/交雑魚の判別はほぼ不可能であろう。実際に市場では「ヤイトハタとクエの交雑種」が『クエ/本クエ』として出回っている可能性もある模様なので要注意。ちなみに『クエ』養殖が盛んな和歌山県の一部では、このような交雑種が_何故か_養殖場近くの堤防などでも頻繁に釣れたこともあったとか(ただし現在の状況は不明)。