新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

367: ユウダチタカノハ

スズキ目スズキ亜目タカノハダイタカノハダイ
学名:Goniistius quadricornis (Günther)
英名:Blackbarred morwong [原]

文献やネット上では、ひだりまき/てっきり/からす/きこり/たかのは/からす等の地方名が見つかるが、ほぼ全てが同じタカノハダイ属のタカノハダイやミギマキと区別されずに使われていると思われるもの。

さて今回紹介するのは、千葉県館山産の全長約19cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。大きな射出骨付き。写真右は、写真左の標本から射出骨を外し、反対側から観察したもの。「夕立鷹之羽/夕立鷹羽のユウダチタカノハ」の形状は、事前の予想を遥かに上回り、近縁のタカノハダイのものと「ほぼ同一」と言えるもの。もちろん両者を詳細に比較すれば 1)肩甲骨孔がわずかに小さく、より丸い印象、2)横から撮影した写真では、烏口骨上方の『背鰭』部が多少低く、より太く見える、3)烏口骨下部の湾入部がより緩やか、4)烏口骨の『嘴』部が多少太い印象、5)のキールの上の平たい突出部がより大きいなど、極めて些細な相違点をいくつか挙げることはできるが、実際のところ同種内の『個体差』としても十分観察できそうな程度の違いでしかない。

「夕立鷹之羽のユウダチタカノハ」の烏口骨上方の『背鰭』部は、肩甲骨と烏口骨本体部が作る平面に対して斜め上方向に立ち上がるが、これは「鷹之羽鯛のタカノハダイ」でも見られていた特徴。



日本近海に生息するタカノハダイ科の魚は、タカノハダイ/ユウダチタカノハ/ミギマキの1属3種のみなので、同定は比較的容易。尾鰭に水玉模様があればタカノハダイ、尾鰭が濃黄色と黒のツートンカラーで、体側が濃い黄色で、唇が赤く、頭部の横帯が3本ならばミギマキ、尾鰭が白から淡黄色と黒のツートンカラーで、体側が白から淡黄色、唇は赤くなく、頭部の横帯が2本ならばユウダチタカノハである。

本稿の魚はその特徴からほぼ間違いなくユウダチタカノハであったが、念のため『日本産魚類検索 第2版【注】』のタカノハダイ科のページを開き、1)尾鰭は上葉が白く、下葉が黒い(写真下右)、2)口唇部は赤くない(写真中段右)、3)眼を通る黒褐色斜帯は胸鰭基部に達しない(写真中段左)、4)背鰭は17棘28軟条(写真下段左右)などの形質からユウダチタカノハであると判断。ただし本稿の魚の臀鰭は3棘8軟条(写真下左)であり、ミギマキ/タカノハダイのそれと同じ数となっている。

更に『新訂原色魚類大圖鑑』に記載された、5)体は三角形で側扁、6)後頭部は盛り上がり、背鰭棘条部はほぼ直線状、軟条部はなだらかに傾斜する(写真中段左および写真下段左右)、7)腹縁はほぼ平坦、8)口はやや下向きで唇は厚い(写真中段左右)、9)両顎歯は小さくて先端は尖り、やや幅広い歯帯をなす(写真中段右)、10)外列歯は大きい(写真中段右)、11)背鰭の棘条部と軟条部の基底長はほぼ等しい(写真下段左右)、12)胸鰭の下部軟条は肥厚し長く伸びる、13)背鰭と臀鰭の基底に鱗鞘(りんしょう)がある(写真下段左右および写真下左/写真下左が分かりやすいが、鰭の根本に鱗でできた『鞘(さや)』があることに注目)、14)体色は淡灰褐色をなし、幅広い黒褐色斜帯が走るなどの形質も確認した。

2012年11月に八王子綜合卸売協同組合のマル幸水産で購入(当日はキロ600円/約0.1kg)。前エントリーのツムブリと同様、この魚も千葉県館山産の「入り会い」からピックアップしたもの。尾ひれ下葉の一部が欠損している。下ろしている時には腸からの悪名高き「におい」を感じたが、これを取り除いた身の方は臭いに関しては全く問題なし。まずは一部を生で試食。身質は悪くないが、如何せん旨味をほとんど感じない。残りは立て塩に30分ほど浸して干物に。これを炙ったものの身質もやはり悪くない(連れ合いは「キスに近い?」)が、やはり旨味がほとんど感じられない。季節/サイズ/鮮度など色々な要因はあるとは思うが、今回の個体に関しては「以前食べたタカノハダイの方が明らかに美味い」というのが我が家の結論。


【注】2013年2月26日に遂に出版された『日本産魚類検索 全種の同定 第3版』(『第2版』から約350種増の4213種類を掲載だそうです)は、筆者も東海大学出版会のサイトで注文済みだが、どうやら注文多数で(そりゃそうだ)手元に届くまでにかなり時間が掛かりそうな情勢、、、ということで、少なくとも現時点で既にストックされている(つまり『第2版』の検索キーで同定済みの)エントリー#400近くまでは『第2版』を元に記事を執筆する予定。またこれまでの記事の内容も『第3版』に合わせておいおい改訂しようと思ってはいるが、本「図鑑」もエントリー数がそれなりに多くなっているので実際どこまでやれるやら、、、