新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

277: キタノホッケ

スズキ目カジカ亜目アイナメ科ホッケ亜科ホッケ属
学名:Pleurogrammus monopterygius (Pallas)
英名:Atka mackerel [原]

通名しまほっけ/縞ホッケ。北海道産の全長約47cmという大きな雌(たっぷり抱卵)の鮮魚から摘出した、射出骨付きの左右の「魚のサカナ」。エタノール固定後に撮影。「北乃𩸽(ホッケは魚扁に花)のキタノホッケ」は、既に紹介済みのアイナメ科のものに共通して見られた形状的な特徴を有しているが、射出骨の上縁がきれいな曲線を描き、肩甲骨と烏口骨の間隙の軟骨の幅が比較的広いなど、その中でもやはり近縁種のホッケのものに最も似ている。ただし烏口骨の『嘴』部は、キタノホッケのものの方が短く幅広なのでより頑丈な印象を与える。烏口骨の『嘴』部の根元には小孔が存在。

写真上の右側の標本のエタノール固定前(左)と固定後(右)の様子。この処理の前後で標本の印象がかなり変わるのがお分かり頂けるはず。全体的に石灰化(骨化)の程度が高くないので、固定前は半透明に見えるが、固定および乾燥後は、脱水により各パーツの骨梁がはっきり観察出来るようになる。また肩甲骨の後下縁と烏口骨本体の前縁には成長線のような模様も確認できる。『嘴』の先端部も軟骨質なので、固定/乾燥後は歪んでしまった。

烏口骨の『嘴』部の擬鎖骨と結合する部分はやはり幅広で平たいが、その部分を横から見ると台形に近い(ちなみにホッケのものではこの部分が「ビーバーの尾」もしくは「しゃもじ」のような形状)。写真はエタノール固定前のものであるが、『嘴』の先端部(写真の右側)にやはり成長線と思われる何重もの波のような模様が観察できる。



日本近海に生息するアイナメ科の魚は2属7種のみで、その内ホッケ属の魚は本稿のキタノホッケとホッケの2種のみなので同定は比較的容易。今回は1)背鰭中央部に欠刻がない(写真中段左)、2)尾鰭後縁が2叉する(写真中段右)、3)体に明瞭な暗色横帯があり、腹側まで太い(写真下段左)、4)第3側線は腹鰭基底後縁と臀鰭基部の中間あたりから始まり臀鰭基底後縁を越えない(写真下段左/赤矢印)、5)第4側線は峽部から始まり腹鰭後端よりわずかに後方に達する(写真下段右/緑矢印:今回の個体では第4側線の後端は第5側線と融合している)などの形質から、キタノホッケであることを確認。ちなみに「縞ホッケの干物」としてスーパーなどにも常に並んでいるので非常に一般的な魚種であるが、この魚の標準和名がキタノホッケであることを知る人はそれほど多くないと思われる(例えば、Wikipedia「ホッケ」のエントリー内でも、「シマホッケ」がまるで標準和名のように使われ、本当の標準和名は「キタノホッケとも呼ばれる」と別名扱いをされているような状態)。

2012年6月に八王子総合卸売センター内の高野水産で購入(当日はキロ1,000円/1.05kg)。実は筆者がキタノホッケの_鮮魚_を手にしたのは初めてのこと。身はとにかく柔らかいが、身の断面を見る限り脂の乗りはまずまずといったところ。生食は初めからとても無理な鮮度であった上に、肝臓にはアニサキスの集団が10匹以上とぐろを巻いていたことから、2枚に下ろし骨付きの片身は煮付けに、もう片身は塩焼きにしてしっかり火を通して食した。煮付けにすると身離れは良い(ちょっと崩れやすい)が、煮汁の味以外にはの旨味はうっすらとしか感じない。不味くはないが、残念な印象あり。塩焼きにしたものの皮目の香りは良く、身にも上品な旨味がある。ただしいわゆる水っぽい身であることも事実で、キタノホッケの定番である「縞ホッケの干物」にするにはやはり理由があるということかも知れない。またぬるま湯でほぐして醤油/みりん/酒で作ったタレに浸けた卵も煮付けてみたが、モソッとした食感になり美味くなかった。

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本稿の改稿前に紹介していた北海道産の特大サイズ(全長約45cm)の開き干し(職場の関係者から北海道土産としてもらった「縞ホッケの干物」)から摘出した「北乃𩸽のキタノホッケ」。キタノホッケは、名前の通りホッケより北の海に生息しており、ロシア船などにより大量に漁獲されている魚。そのため、少しでも効率良く運ぶことが出来るよう、流通前に「ドレス」(魚の頭と内臓を除去した状態。恐らく「頭がない=ヘッドレス」の略)に処理されることがほとんどであるとのこと。このような輸入原料から作った「縞ホッケの干物」には、当然頭が付いていないことになる。ということで、頭付きのキタノホッケの干物(つまり店頭の表示通り「北海道産」の可能性高し)は、筆者が記憶している限りではこの時が初見。脂の乗りは恐らく一般的なホッケ以上で、焼いている時に滴り落ちる大量の脂に驚かされる程。身離れも、また口にした時の食感も良い。美味。

ごちそうさまでした。


(9/19/12 写真変更&改稿)