新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

363: ホシホウネンエソ

ワニトカゲギス目ヨコエソ亜目ムネエソ科ムネエソ亜科ホウネンエソ属
学名:Polyipnus matsubarai Schlutz
英名:Starry hatchetfish [原]

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【警告】今回のエントリーには半消化された魚の写真(不快感を与える恐れがあるもの)が出てきます。
【警告】この手の写真が苦手な方や、食事中の方などはご覧にならない方が良いと思います。

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前エントリーで紹介した静岡県産のナンヨウキンメの胃袋の中に半消化状態で入っていた、体長約9cm(全長では恐らく10.5cmほど)の個体から摘出した「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本を拡大して観察したもの。消化酵素で軟骨組織が脆弱になっていたのか、標本調製中に中烏口骨が外れてしまったため修復してある。射出骨(第1射出骨は小さな三角形だが、第2〜第4射出骨は細くて長い)付き。

中烏口骨を修復する前に撮影した写真上の右側の標本。ワニトカゲギス目の「魚のサカナ」は今回が初登場となるが、「星豊年狗母魚/星豊年狗尾魚/星豊年鱠(エソは魚偏に曾)のホシホウネンエソ」の形状は文字通り独特なもの。比較的小さい肩甲骨および肩甲骨孔、斜め上方向に大きく広がった烏口骨『背鰭』部、末端が大きく扇型に広がった烏口骨『嘴』部などは、中烏口骨のない状態の方が観察しやすい(写真左)。また烏口骨からは筒状で高さのある構造物が突き出ており、この部分に中烏口骨が結合する(写真右の赤四角/この写真は、写真上左の左側の標本のもの)。またこの筒状の構造物は「底抜け」になっており、反対側から観察すると小孔が開いている(写真下右の赤丸)。

肩甲骨と中烏口骨の部分を拡大して観察。ホシホウネンエソの中烏口骨の先端部分は、表側から観察すると『飛行艇のフロート』のような形状(写真左)。肩甲骨からもそこそこ距離がある(写真右)。

ホシホウネンエソの耳石も独特の形状。本体と垂直方向の突起があり、『サムアップ』しているようにも見えて楽しい。



今回の個体はナンヨウキンメの胃の中でかなり消化されており、胸鰭と尾鰭の一部を除いて各鰭が失われているなど状態はあまり良くなかったが、ムネエソ科の魚であることだけは確実であるように思われたのでそこから「検索」開始。1)腹部縁辺に骨質隆起(竜骨板)がある(写真下段左)、2)背鰭前方に棘突起(ではないかと思われるもの/写真下右の赤丸)がある、3)体高は著しく高く、強く側扁する、4)臀鰭基底部に透明域がない、5)腹部上部発光器(SAB)と思われるものが3個程度ある(写真下段右の緑丸/恐らく6個はないはず。また腹部発光器[AB]の数は分からない)、6)後側頭骨棘は小さく、分枝しない(写真下左の赤丸)、7)竜骨板の縁辺に鋸歯がない(写真下段左)、8)背鰭前黒色帯は細く尖り、体側中線を越える(写真中段右の青四角。赤矢印は側線の位置を示す)という形質を確認し、ホシホウネンエソであると判断した。

また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている通り、両顎に極めて小さな歯がある(写真下)。更に静岡産のナンヨウキンメの腹の中にいたものということで、駿河湾などの太平洋に分布という生息域の情報にも矛盾しない。

ただし魚の状態が状態だけに、判断ミスをしている可能性は低くないはず。詳しい方からの情報をお待ちしています。

さすがに今回の魚を試食する勇気はなかったので、写真撮影と「魚のサカナ」の摘出だけで処分した。


【参考】ホシホウネンエソのきれいな写真(町田吉彦氏撮影)は、『土佐の自然』ギャラリー集第3号: 第126集の#963がオススメです。

362: ナンヨウキンメ

キンメダイ目キンメダイ科キンメダイ属
学名:Beryx decadactylus Cuvier
英名:Broad alfonsino [原], Beryx, Cuvier's berycid fish, Imperador, Long-finned beryx, Red bream

地方名/流通名ひらきんめ(平キンメ/ただしフウセンキンメが「平キンメ」として売られている場合もあるので注意)、いたきんめ(板キンメ)など。静岡県産の全長約52cmの大型個体から摘出した左右の標本。個体のサイズ相応の大きな「魚のサカナ」で、最長部で約6cmある。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。

「南洋金目のナンヨウキンメ」の形状は、これまでに紹介したキンメダイ目の「魚のサカナ」の中で、やはり同じキンメダイ属のキンメダイフウセンキンメのもの(2013年2月に写真を追加した、愛知県西浦産の小型個体から摘出した標本)と多くの共通点を有している。特にフウセンキンメのものとは全体的な雰囲気を含めて大変良く似ているが、ナンヨウキンメのものでは 1)『体高』が低い(左右に細い)、2)烏口骨上方の『背鰭』部が低い、3)烏口骨本体後部下縁から『嘴(尾)』部に繋がるラインがより深く湾入する、4)『嘴(尾)』部がより細く長いなど、両者間の相違点を幾つか挙げることはできる。

「南洋金目のナンヨウキンメ」の烏口骨の『背鰭』部にも幾つかの孔が開く(写真上左)。また『嘴』の平たい先端部には『成長線』のような模様が観察できる(写真上右)。

キンメダイ属の魚の耳石はそれぞれ独特の形状。今回のナンヨウキンメの耳石はさすがに大きく、幅が約1.9cmもある。



日本近海に生息するキンメダイ科の魚は2属4種で、その内3種(キンメダイ/フウセンキンメ/ナンヨウキンメ)がキンメダイ属の魚である。本稿の個体は体高があり、キンメダイ/フウセンキンメとは明らかに異なるものであったが、念のため「日本産魚類検索 第2版」のキンメダイ科の検索キーを辿り、1)背鰭棘数が4(写真下段左)、2)臀鰭基底長は背鰭基底長より長い(写真下段左右)、3)臀鰭軟条数は29(25~30/写真下段右)、4)頭部涙骨に鋭い1棘がある(写真下右の緑丸)、5)体は高く、体長(40cm)は体高(18cm)の約2.2倍などの形質を確認し、ナンヨウキンメであると判断。

ちなみにフウセンキンメとの共通点は「魚のサカナ」の形状に留まらず、ナンヨウキンメの鼻孔も2つとも丸く(写真中段右)、また頭部涙骨の棘は強い(写真下右の緑丸/もっと正確に書くと、ナンヨウキンメの棘の方が強大。この個体では先端が折れている)。

ナンヨウキンメの鱗は弱い櫛鱗(写真下)。

2012年10月に角上魚類日野店で購入(当日はキロ1,300円/1.82kg)。店頭表示は「平キンメ」。2枚に下ろし、まず一部を刺身で試食。下ろしている時は身が柔らかめに思われたが、口の中では予想以上にしっかりした歯応えを返してくる。脂からくる甘み、身自体に含まれる旨味を強く感じる。半身の残りは少し厚めに切って「魚しゃぶ」に。食感が改善され、旨味もより立つ。骨付きの半身とあらは「定番」と思われる煮付けに。身離れ、食感とも良く、また旨味甘みを強く感じる。たまたま遊びにきた親戚にも振る舞ったが「これはうまい!」とあっという間に食べ尽くしてしまった。非常に美味い。

ナンヨウキンメは一般にキンメダイ(およびフウセンキンメ)より食味が劣るとされ、市場価格もそれなりに安価となる。実際本稿のナンヨウキンメの購入日には千葉産のキンメダイも並んでいたが、後者のキロ単価は2,000円を越えていた。ただ、今回のナンヨウキンメは非常に美味で、この魚だけを単独で食べる分には「全く問題なし」というのが個人的な感想。もちろん個体サイズ/季節/産地などの要因がたまたま上手く絡み合った個体であったという可能性もあるので、今後機会があれば是非「キンメダイ属3種の食べ比べ」をしてみたいところ。


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【参考】日本産キンメダイ属魚種の見分け方

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上述した通り、日本近海に生息するキンメダイ科の魚は2属4種で、その内の3種はキンメダイ属のキンメダイ、フウセンキンメ、ナンヨウキンメである。市場に流通しているのはキンメダイがほとんどであると思われるが、フウセンキンメやナンヨウキンメが少なからず出回っているのもまた事実。お互いに良く似た体色/体型(特にキンメダイとフウセンキンメは非常に良く似ており、実際1999年に出版された論文によってようやく別種であることが確定したくらい)なので、どこに注目したら良いのかが分かっていないと見分けは案外難しいと思われる。ということで、キンメダイ属3種の「見分けのポイント」を以下にまとめておく。

キンメダイ
フウセンキンメ
ナンヨウキンメ
全体像
鼻孔
涙骨棘
背鰭
臀鰭
耳石


【写真1段目】「平キンメ」の流通名/地方名通り、ナンヨウキンメは体高が高く平たいので比較的判別しやすい。キンメダイとフウセンキンメは体高が余り高くないが、両者を並べて比べるとフウセンキンメの方がわずかに体高が高いことが多い模様(ただしキンメダイ/フウセンキンメのどちらか1種しかいない場合に、体高の高低を判断するのはかなり難しいはず)。また側線有孔鱗数が、ナンヨウキンメでは少なく52~62、フウセンキンメでは60~69、キンメダイでは65~73とのことなので、数値が重ならないところでは同定の参考になると思われる(ちなみに本稿のナンヨウキンメでは61だったので、キンメダイではないが、フウセンキンメの可能性は残ることになる)。

【写真2段目】キンメダイとフウセンキンメ(およびナンヨウキンメ)を見分けるのに最も分かりやすいのが目の前にある鼻孔の形状で、良く見ると、キンメダイの後鼻孔(写真中の「2」)は細長いスリット状であるのに対して、フウセンキンメとナンヨウキンメのそれは丸っぽい。

【写真3段目】またキンメダイの涙骨棘(鼻孔の下の眼と口の中間辺りに生じる棘/緑丸に注目)はあまり目立たないが、フウセンキンメとナンヨウキンメのそれは鋭く強大(プラスチックトレーの上でラップに包まれている場合は、そのラップを突き破ってしまうほど)であることも判別ポイントとして使えそうである。

【写真4段目】ナンヨウキンメを確実に見分けるための「ポイント」は背鰭の軟条数で、キンメダイでは13から15本(14本が多い)、フウセンキンメでは12から13本(13本が多い)であるのに対し、ナンヨウキンメでは18~20本と明らかにその数が多い(写真4段目/棘条と軟条の区別がつかない方は、背鰭の筋をまとめて数えて20本以上<実際には22本以上になるが>あればナンヨウキンメである)。

【写真5段目】臀鰭の軟条数(ちなみに棘条数は全て「4」)にはそれほどバリエーションがなく、数値が重なってしまっているために見分けの重要なポイントにはならない(ただし文献値的には、25軟条ならナンヨウキンメ、31および32軟条ならフウセンキンメとなるはず)。またナンヨウキンメの場合は臀鰭軟条基底が少々丸くなるという記述をどこかで見たような気がするが、この写真を見る限り大きな違いがあるようには思われない。

【写真6段目】体側背側の鱗の後縁に注目すると、キンメダイのものでは滑らか、フウセンキンメのものでは比較的強い櫛鱗、ナンヨウキンメのものでは弱い櫛鱗という違いがある。

【写真7段目】耳石の形状も種によって異なるようだが、実際は同種であっても個体によって形状が異なることを確認しているので、種の同定のための「ポイント」にはならないと思われる。

361: アヤメカサゴ

スズキ目カサゴ亜目メバルカサゴ
学名:Sebastiscus albofasciatus (Lacepède)
英名:Yellowbarred red rockfish [原]

地方名アカガシラ(和歌山)、アカゲ(茨城)、オキアラカブ(長崎)、マダラホゴ(鹿児島)など。神奈川県小田原市産の全長約30cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。「綾目笠子/文目笠子のアヤメカサゴ」は、すっかり見慣れたフサカサゴ科の「魚のサカナ」の基本形で、その中でも筆者が『カサゴ型』と呼んでいる、烏口骨の上方の『背鰭』部の高さが低いタイプ。同じカサゴ属のカサゴウッカリカサゴのものとほぼ同じ形で、相違点を挙げることが困難なほどである。

「綾目笠子のアヤメカサゴ」を下側から見ると途中で折れ曲がっていることが分かる。また第4射出骨の後端も少々湾曲している。



フサカサゴ科の魚は種類が非常に多い上に、似たような外見/体色のものも多いため、魚種の「同定」に困難が伴うことも少なくないが、アヤメカサゴに関しては体色があまりに独特なので比較的容易に同定可能。また日本近海に生息するメバル亜科カサゴ属の魚自体がカサゴウッカリカサゴ/アヤメカサゴの3種のみである。今回の個体に関しても店頭で独特の「虫食い状斑紋」を見た瞬間にアヤメカサゴであることを確信したが、念のため「日本産魚類検索 第2版」のフサカサゴ科の検索キーを辿り、1)側線は溝状でない、2)胸鰭に遊離軟条も欠刻もない(写真下段左)、3)胸鰭も背鰭も普通の大きさ、4)眼下骨系(頬)に棘がない(写真中段左)、5)背鰭は12棘12軟条(写真下左)、6)胸鰭上半部の後縁は浅く湾入する(写真下段左)、7)尾鰭後縁は丸い(写真下右)、8)胸鰭腋部に皮弁がない(写真下段右)、9)胸鰭は17軟条(写真下段右)、10)体に赤色の地色に黄色の虫食い状斑紋がある(写真中段左右)などの形質を確認し、最終的にアヤメカサゴであると判断。

『新訂原色魚類大圖鑑』にも記載されているように、アヤメカサゴの上顎は下顎よりわずかに長い(写真下)。

2012年10月に八王子総合卸売センター内、高野水産で購入(当日はキロ2,000円/0.45kg)。店頭表示は単に「カサゴ」。鰓は粘り気も全くない鮮紅色で、眼色や体の張りからも非常に新鮮な個体であることは明らかであったので、2枚に下ろし、半身は刺身、骨付きの半身は塩焼きに。刺身にした半身は更に半分に分け、皮を引いた普通の刺身と、皮付きで表面を炙り「焼き霜」にしたものの2種類を試食したが、個人的には「焼き霜」のほうが好み。皮目の香ばしさが加わって風味が格段に良くなる。口に入れた時に旨味が溢れるという訳ではないが、噛んでいると上品な旨味甘味が出てくるタイプの身。美味。また塩焼きにすると、しっとりとした身質で身離れも悪くない。上記した通り皮目の香ばしさは素晴らしい。生よりも旨味は立ち、咀嚼する毎に上品な旨味が広がる。とても美味い。

「釣魚1400種図鑑」(小西英人著)では、カサゴウッカリカサゴの食味を「良」、アヤメカサゴの食味を「極」としている。これを見てしばらく探していたアヤメカサゴを今回ようやく食べることが出来た訳だが、個人的には「そこまで差があるかな?」というのが正直な感想。もちろんアヤメカサゴは美味い魚であることに異論はないし、今回は3種を並べて食べ比べた訳ではないので念のため。

360: クロサバフグ

フグ目フグ亜目フグ科サバフグ属
学名:Lagocephalus gloveri Abe and Tabeta
英名:Dark rough-backed puffer(『原色』に英名表記なし)

地方名/流通名は数多く、ネット上で調べが付くものだけでも:サバフグ(大阪市高知市鹿児島市枕崎市)、ギロ(下関市)、アオカナト(下関市北九州市)、アオマル(下関市)、カナト(北九州市大分市)、クロカナト(北九州市)、アオフグ(宮崎市)、チャンプク(鹿児島市枕崎市)、クロ(鹿児島市枕崎市)など。

今回紹介するのは、神奈川県小田原市産の全長約28cmの抱卵雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察。「黒鯖河豚のクロサバフグ」の形状は、パッと見でもフグ科の「魚のサカナ」であることが明らかなもの。特に大きな4つの射出骨の間隙にある3つの孔と、その下にある肩甲骨孔の計4つの孔が並ぶという、これまでに紹介してきた全てのフグ科の「魚のサカナ」で見られた最大の特徴はクロサバフグのものでも共有されている。射出骨の3つの孔は比較的小さく丸い。肩甲骨孔は射出骨の孔よりも小さく『涙』型。烏口骨の上部突起(『背鰭』)部はかなり細長い『針』状で、烏口骨本体から『嘴』部に掛けての部分は太い。

「黒鯖河豚のクロサバフグ」の形状/特徴が同じサバフグ属のシロサバフグのものに良く似ていることは想定の範囲内だったが、全体的な雰囲気がトラフグ属のコモンフグのものにもかなり似ているというのは予想できなかった(もっとも系統関係を考えれば「たまたま」なのだが)。

写真上の右側の標本を斜め上方向から観察したもの。烏口骨の上部突起(『背鰭』)部は『角』のように斜め上方向に鋭く突き出している。また第1射出骨の前縁および第4射出骨の後縁には『タブ』のような構造物があることを確認できる。これはこれまでに紹介してきた幾つかのフグ科の「魚のサカナ」でも見られていたもの。



「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」のフグ科の同定の鍵を辿り、1)体に側線がある(写真下右)、2)体の断面は丸い、3)体表の背面(写真中段右)と腹面(写真下段左)に小棘の分布域がある、4)尾鰭後縁は二重湾入型(写真下段右)、5)胸鰭は黒くない(写真中段左)、6)尾鰭下葉先端は上葉に比べて明瞭に長くない(写真下段右)、7)鰓孔は白い(写真中段左の赤丸)、8)体背面の小棘域は胸鰭先端の前方までしか達しない(=背鰭起部付近まで達しない/写真中段右の赤線が体背面小棘域の最後端)、9)尾鰭上下葉端は白い(写真下段右)などの形質からクロサバフグであると判断。

日本近海産のクロサバフグ個体は無毒と考えられており、厚生省環境衛生局長通知(最終改正は平成22年9月10日)「フグの衛生確保について」でもプロのふぐ調理師が処理したクロサバフグの筋肉・皮膚・精巣は販売可能とされている。ただし、南シナ海産の個体の筋肉(弱毒)、卵巣(猛毒)、肝臓(猛毒)には毒が含まれているとの報告があり、また体型および体色が良く似ており、筋肉・皮膚・肝臓・卵巣・腸が強毒なドクサバフグという種もいる。上の形質8)でドクサバフグは一応見分けられることになっている(ドクサバフグでは、体背面の小棘域が背鰭起部付近まで達する。こちらを参照)が、素人判断は非常に危険である。もし釣りの獲物などを個人的に食べてみようという場合は自己責任で(万が一の場合も当方は一切責任を持ちません)。

今回の個体は、前エントリーのトゴットメバルと同様、2012年10月に八王子総合卸売センター内の高野水産に入荷した小田原産の「入り会い」に入っていたもの(当日はキロ1,000円/0.58kg。ただし腹の中に水を大量に飲んだ状態だったので、実際の体重はもっと軽いはず)。写真撮影後は、同店のふぐ調理師に処理してもらい自宅に持ち帰った。今回はブツ切りにして唐揚げに。少々水っぽく感じないでもなかったが、旨味はそれなりに含まれている。トラフグの「魔味」には到底敵わないのは言うまでもないが、そういう比較を抜きにすれば、これはこれで美味い。

359: トゴットメバル

スズキ目カサゴ亜目メバルメバル
学名:Sebastes joyneri Günther
英名:Saddled brown rockfish [原](FishBaseに英名表記なし)

通名/地方名としては、ウスメバルと区別されずに「おきめばる(沖メバル)」「あかめばる(赤メバル/もちろん標準和名アカメバルは別種の魚)」など。

神奈川県小田原産の全長約22cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。「戸毎眼張のトゴットメバル」の基本形状は、すっかりお馴染みとなったフサカサゴ科の「魚のサカナ」のもので、その中でも烏口骨の上方にある『背鰭』部の前縁と第4射出骨の後縁が作るラインが比較的深く湾入する(これにより『背鰭』部が高く見える)という、筆者が『メバル型』と呼んでいるタイプ。特にアカメバルクロメバル、そして本稿のトゴットメバルと良く似たウスメバルなどの「魚のサカナ」とは「酷似する」と言っても良いレベルで、肩甲骨孔が多少大きく見えること、烏口骨の『嘴』部が直線状で比較的長いことなど、ほんの些細な相違点を挙げることしかできない。

ちなみに写真右では、第2/第3射出骨が作る孔が比較的小さく、第1/第2射出骨が作るものとほぼ同じ大きさのように見えるが、写真左からも分かるように必ずしも事実を反映していないので念のため。



「日本産魚類検索 第2版」のフサカサゴ科の検索キーを辿り、1)側線は溝状でない、2)胸鰭に遊離軟条がない(写真下左)、3)胸鰭も背鰭も普通の大きさ、4)胸鰭に欠刻がない(写真下左)、5)背鰭は13棘14軟条、6)頬に棘がない(写真中段左)、7)胸鰭上半部の後縁は丸い、7)眼窩下縁に棘がない、8)弱い頭頂棘がある(写真下段左)、9)下顎は著しく前に突出せず、その先端は尖らない(写真中段左)、10)尾鰭後縁は2叉する、11)主上顎骨には鱗がある(写真中段右の赤四角)、12)涙骨には顕著な2棘がある(写真中段右の緑丸)、13)胸鰭は16軟条(写真下左/ただしこの写真からは計測しにくいかもしれない)、14)体側の上半分に、輪郭が丸みを帯びた5本の明瞭な黒色帯がある(写真下段右)、15)側線有孔鱗数は48(47~53)などの形質からトゴットメバルであると判断。

外見が非常に良く似たウスメバルとは、形質14および15で区別することが可能(ウスメバルの斑紋は不定形で、側線有孔鱗数は52~56とトゴットメバルより多い)だが、「ウス」メバル=斑紋が「薄い」と考えてしまう人も少なくないようで、比較的斑紋が濃く出ているウスメバルをトゴットメバルと誤同定してしまっているのをネット上でも時々見かける。もちろんトゴットメバルの斑紋にもある程度のバリエーションはあるが、1)頭に近い方から1本目は上下2つの円斑が完全に分離、2)2本目および3本目は上下の円斑が1本目より大きく、一部が重なったようになる(もしくは下の円斑に、勲章の帯のような形で上の円斑が結合している)、3)更に背鰭の軟条部下に現れる4本目および5本目は背縁に近い上側にだけ円斑があり側線には届かないというパターンはほぼ共通している模様。ご参考までに。

2012年10月に八王子総合卸売センター内、高野水産に入荷した小田原産の「入り会い」の中の1匹(当日はキロ1,000円/0.15kg)。体側の特徴的な模様から、トロ箱の中に見つけた瞬間にトゴットメバルであることを確信したが、筆者が東京多摩地区でこの魚が売られているのを見たのは(記憶にある限り)初めてのこと。他の場所の状況は分からない(少なくとも2012年末に愛知県・三河一色さかな村のトレーの上に1匹乗っているのは発見した)が、少なくとも東京多摩地区では「沖メバル」としてはウスメバルが主に流通し、トゴットメバルの流通量は圧倒的に少ないはずである。

本稿の個体は余計なことは考えずに塩焼きに。皮目から立ち上る芳香が素晴らしい。身質はかなり良く、脂も良く乗っている。溢れるほど多量ではないが、上品な旨味も含まれている。美味。

358: カラフトマス

サケ目サケ科サケ亜科サケ(タイヘイヨウサケ)属
学名:Oncorhynchus gorbuscha (Walbaum)
英名:Pink salmon [原], Humpback salmon

通名/地方名:あおます(青マス/青鱒)、せっぱります(背張鱒/『新訂原色魚類大圖鑑』では別名扱いだが、平成19年に日本魚類学会により「日本産魚類の差別的標準和名の改名」が行われた際に差別表現とされた『せっぱり』が含まれるこの名前が将来的に「標準和名」として使用されることはまずないだろう)、オホーツクサーモン(北海道の一部地域)。また宮古/山田/釜石/大船渡辺りでは「さくらます」とも呼ばれているようだが、もちろん標準和名のサクラマス(ヤマメの降海型)とは別の魚である。

さて今回紹介するのは、北海道根室産の全長約51cmの塩漬け個体(「塩マス」)から摘出した左右の「魚のサカナ」。細長い射出骨付き。エタノール固定前に一応オキシドールによる脱色/脱脂処理を行ったが、この処理だけでは脂分が完全に抜け切らなかったのか、気づいた時にはエタノール浸漬中にもかかわらず中烏口骨と烏口骨の一部が黄変していた。

写真上の右側の標本から射出骨を除去し、その両側から拡大して観察したもの。「樺太鱒のカラフトマス」は、一見してサケ目の「魚のサカナ」であることが分かるという意味では「基本形」と言えるものだが、実際には 1)肩甲骨が比較的小さく見える、2)肩甲骨孔が円もしくは楕円形でなく、少々いびつな形状、3)烏口骨上方の突起(『背鰭』)部は高いが、その先端部は切り落とされたようになっている(=先端が前方へ尖らない)、4)この『背鰭』部には小さな孔が1つ開いている、5)中烏口骨が非常に大きい、6)烏口骨の『嘴』部が太くて短いなど、サケ目の「魚のサカナ」の中ではかなり特徴的なもの。

上に挙げた「樺太鱒のカラフトマス」の特徴の中でも、もっとも目立つのが「中烏口骨が非常に大きい」こと。特に擬鎖骨と接する遠位部は大変大きく広がる(写真上)。真横から見ると、その前方先端は肩甲骨の前縁を遥かに越えている(一段上の写真上左)。

「青マス」という流通/地方名の通り、カラフトマスの背面は青みがかった暗色(ただし今回の個体は「塩漬け」のためか、この色が少々分かりにくい)。



『日本産魚類検索 第2版』のサケ科の同定の鍵を辿り、1)頭部が側扁し、頭頂部が膨らむ(写真上段左)、2)鋤骨・口蓋骨の歯帯は『小』字型(写真上段右)、3)体の背面に大きめの黒点が散在(写真中段左右)、4)尾鰭全面に大きめの黒点が散在する(写真下段右)、5)下顎歯基底部は灰白色(写真下右/マスノスケでは下顎歯基底周辺が真っ黒である)、6)尾鰭後縁は黒く縁取られない(写真下段右)などの形質からカラフトマスであると判断。また縦列鱗数が150〜240と多く、鱗が非常に小さい(写真下左/今回は計測していない)こともカラフトマスの大きな特長。ただし今回の個体は、内臓と鰓の除去後に塩漬けされた個体であるため、パーマークの確認や鰓耙数の計測は出来なかった。

2012年9月に八王子綜合卸売協同組合の興実水産で購入した「甘塩の青鱒」(当日は1,300円/匹)。身は柔らかいが、脂はかなり乗っており、包丁を入れるとじわっと溢れてくるほど。3枚に下ろした身の色はベニザケに比べるとかなり淡い(写真下左)。「甘塩」と言っても塩気はやはり強いが、焼いてもパサパサにはならないしっとりした身で、上品な旨味とともにあっさりと食べることができる。かなりの美味。同時に食べ比べたベニザケ(「本ちゃん」)よりも個人的には好み。アラは三平汁に(写真下右)。良い出汁が出てこちらも美味い。ショウガを入れると「塩マス」独特の風味が弱まって食べやすくなるので、臭いが気になる向きは是非お試し頂きたい。


市販の「サケ水煮」缶は、カラフトマスを原料に使用したものが多い(写真下)。

357: ツマグロアオメエソ

ヒメ目アオメエソ亜目アオメエソ科アオメエソ属
学名:Chlorophthalmus nigromarginatus Kamohara
英名:Blacktipped greeneye [原],Blackedge greeneye, Grinner

地方名/流通名めひかり(目光/ただしアオメエソ属の魚の総称)、あおめ(高知/トモメヒカリとの混称)など。宮崎県産の全長約25cmの雌個体(真っ白の卵を確認)から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。写真右は、写真左の左側の標本から射出骨を外し、反対側から観察したもの。

「褄黒青目狗母魚/端黒青目狗尾魚/褄黒青目鱠(エソは魚偏に曾)のツマグロアオメエソ」は、これまでに紹介したヒメ目の「魚のサカナ」の中でも、やはり同じアオメエソ属のアオメエソマルアオメエソ(両者は同一種であるとする説もあるが)に良く似ている。烏口骨の上方突起(『背鰭』)部の下方に小孔が開いているのも共通。ただしツマグロアオメエソのものでは、1)肩甲骨と烏口骨本体が楕円形を作り、その円周に接するように烏口骨の『背鰭』部と『嘴(もしくは尾)』部が結合(つまり「接線」は比較的短い)する、2)肩甲骨の大きさに比して肩甲骨孔が比較的小さい、3)『背鰭』から『嘴』にかけてのラインが緩やかな曲線を描く、4)アオメエソ/マルアオメエソのものに比べると烏口骨の『嘴』部が短めなどの特徴を見出すことができる。



『日本産魚類検索 第2版』によれば、日本近海に生息するアオメエソ科の魚は7種(本当に別種かどうか議論があるというアオメエソ/マルアオメエソを含めて)で、その全てがアオメエソ属。今回の魚は 1)鋤骨外縁に歯がない(写真中段右の赤四角)、2)尾鰭後縁が黒い(写真下段左)、3)下顎の外歯叢は3〜4列(写真下段右の赤四角)という形質からツマグロアオメエソであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』のツマグロアオメエソの項に記載された、4)背鰭前方がやや隆起、5)吻は眼径とほぼ同長で先端は尖る(写真中段左)、6)口は大きく斜位(写真中段左)、7)上顎後端は眼の前縁下に達する(写真中段左)、8)下顎は上顎より長い(写真中段左)、9)両顎に歯帯を形成し、口蓋骨歯は粒状、10)背鰭は体の中央より前方にあり、腹鰭とほぼ相対、11)脂鰭と臀鰭も相対、12)尾鰭後縁は2叉する(写真下段左)、13)肛門周囲に黒い発光器がある(写真下左)、14)腹鰭に黒色横帯がある(写真下右)などの形質も確認した。

ちなみに属名の Chlorophthalmus は「緑の眼」(写真下左右)、種小名の nigromarginatus は「(鰭の)縁辺が黒い」という意味。正に「ツマグロ」「アオメ」エソである。

2012年9月に八王子綜合卸売協同組合の三倉で購入したものだが、当日のキロ単価は2,700円(2匹で0.41kg/表示は「目光」)。3枚に下ろしてみると、真っ白の美しい身が登場。ただし小骨は少なくないので丁寧に抜く必要がある。まずは刺身に(写真下左)。全体に柔らかいが、歯を立てるとプリプリした抵抗も感じる。脂は乗っているようで、咀嚼していると甘味と上品な旨味が昇ってくる。ただ同時にいわゆる「水っぽさ」を感じないでもなかったので、刺身をしばらく昆布に挟み「昆布締め」に。適度に脱水され、また昆布の旨味もプラスされるため、家族には単なる刺身よりも好評。もう1匹は開いてから塩焼き(干してはいない)にして、同じ日に購入した新潟産のアオメエソの塩焼きと味比べ(写真下右/上がアオメエソ、下がツマグロアオメエソ)。ツマグロアオメエソでは小骨が少々当たるが、アオメエソでは小骨は全く感じない。身が非常に柔らかいアオメエソに比べれば、ツマグロアオメエソの身質の方がしっかりした食感を与える。ツマグロアオメエソの脂の乗りはアオメエソと比して遜色ない(焼いている時に染み出てきた脂の量で判断)が、旨味成分含量はアオメエソの圧勝。塩焼きの総合評価ではやはりアオメエソに軍配を上げざるを得ないが、ツマグロアオメエソもなかなか美味い魚であるのは間違いない。ただ個人的には「キロ単価2,700円」の価値は見出せなかったというのが正直なところ。


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【参考】上で紹介した個体と同時に購入したもの(全長約26cmの雌個体)は、何らかの理由で左の胸鰭を欠損していた(写真下右の赤四角/店頭では全く気付かなかった)。

そこでこの個体からも「褄黒青目鱠のツマグロアオメエソ」を摘出してみたが、胸鰭との連結ポイントである射出骨のみならず、「魚のサカナ」全体が大きく変形しており、特に烏口骨部分の異常は顕著であった。このことから、この個体の鰭の欠損は後天的な外傷の影響ではなく、胸部の発生に失敗した「奇形」の可能性の方が高いと思われる。