新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

358: カラフトマス

サケ目サケ科サケ亜科サケ(タイヘイヨウサケ)属
学名:Oncorhynchus gorbuscha (Walbaum)
英名:Pink salmon [原], Humpback salmon

通名/地方名:あおます(青マス/青鱒)、せっぱります(背張鱒/『新訂原色魚類大圖鑑』では別名扱いだが、平成19年に日本魚類学会により「日本産魚類の差別的標準和名の改名」が行われた際に差別表現とされた『せっぱり』が含まれるこの名前が将来的に「標準和名」として使用されることはまずないだろう)、オホーツクサーモン(北海道の一部地域)。また宮古/山田/釜石/大船渡辺りでは「さくらます」とも呼ばれているようだが、もちろん標準和名のサクラマス(ヤマメの降海型)とは別の魚である。

さて今回紹介するのは、北海道根室産の全長約51cmの塩漬け個体(「塩マス」)から摘出した左右の「魚のサカナ」。細長い射出骨付き。エタノール固定前に一応オキシドールによる脱色/脱脂処理を行ったが、この処理だけでは脂分が完全に抜け切らなかったのか、気づいた時にはエタノール浸漬中にもかかわらず中烏口骨と烏口骨の一部が黄変していた。

写真上の右側の標本から射出骨を除去し、その両側から拡大して観察したもの。「樺太鱒のカラフトマス」は、一見してサケ目の「魚のサカナ」であることが分かるという意味では「基本形」と言えるものだが、実際には 1)肩甲骨が比較的小さく見える、2)肩甲骨孔が円もしくは楕円形でなく、少々いびつな形状、3)烏口骨上方の突起(『背鰭』)部は高いが、その先端部は切り落とされたようになっている(=先端が前方へ尖らない)、4)この『背鰭』部には小さな孔が1つ開いている、5)中烏口骨が非常に大きい、6)烏口骨の『嘴』部が太くて短いなど、サケ目の「魚のサカナ」の中ではかなり特徴的なもの。

上に挙げた「樺太鱒のカラフトマス」の特徴の中でも、もっとも目立つのが「中烏口骨が非常に大きい」こと。特に擬鎖骨と接する遠位部は大変大きく広がる(写真上)。真横から見ると、その前方先端は肩甲骨の前縁を遥かに越えている(一段上の写真上左)。

「青マス」という流通/地方名の通り、カラフトマスの背面は青みがかった暗色(ただし今回の個体は「塩漬け」のためか、この色が少々分かりにくい)。



『日本産魚類検索 第2版』のサケ科の同定の鍵を辿り、1)頭部が側扁し、頭頂部が膨らむ(写真上段左)、2)鋤骨・口蓋骨の歯帯は『小』字型(写真上段右)、3)体の背面に大きめの黒点が散在(写真中段左右)、4)尾鰭全面に大きめの黒点が散在する(写真下段右)、5)下顎歯基底部は灰白色(写真下右/マスノスケでは下顎歯基底周辺が真っ黒である)、6)尾鰭後縁は黒く縁取られない(写真下段右)などの形質からカラフトマスであると判断。また縦列鱗数が150〜240と多く、鱗が非常に小さい(写真下左/今回は計測していない)こともカラフトマスの大きな特長。ただし今回の個体は、内臓と鰓の除去後に塩漬けされた個体であるため、パーマークの確認や鰓耙数の計測は出来なかった。

2012年9月に八王子綜合卸売協同組合の興実水産で購入した「甘塩の青鱒」(当日は1,300円/匹)。身は柔らかいが、脂はかなり乗っており、包丁を入れるとじわっと溢れてくるほど。3枚に下ろした身の色はベニザケに比べるとかなり淡い(写真下左)。「甘塩」と言っても塩気はやはり強いが、焼いてもパサパサにはならないしっとりした身で、上品な旨味とともにあっさりと食べることができる。かなりの美味。同時に食べ比べたベニザケ(「本ちゃん」)よりも個人的には好み。アラは三平汁に(写真下右)。良い出汁が出てこちらも美味い。ショウガを入れると「塩マス」独特の風味が弱まって食べやすくなるので、臭いが気になる向きは是非お試し頂きたい。


市販の「サケ水煮」缶は、カラフトマスを原料に使用したものが多い(写真下)。