新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

350: ゲンロクダイ

スズキ目スズキ亜目チョウチョウウオチョウチョウウオ
学名:Chaetodon modestus Temminck and Schlegel
英名:Brownbanded butterflyfish [原], Brown-banded butterflyfish, Japanese golden-barred butterflyfish, Modest butterflyfish

愛知県一色漁港産の全長約15cmの雌個体(たっぷり抱卵)から摘出した左右の「魚のサカナ」。ちなみに本図鑑で紹介するチョウチョウオ科の「魚のサカナ」は、このゲンロクダイのものが初となる。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察。

「元禄鯛のゲンロクダイ」の最大の特徴は、細長く伸びる烏口骨の『嘴』部分の先端が『鍵』のように平たく広がっていること(写真下左)。これまでにもニベ科のものを中心に、『嘴』部分の先端が少々平たくなっている「魚のサカナ」はあったが、ここまで大きく広がっているのはスズキ目スズキ亜目の「魚のサカナ」としては初登場。肩甲骨の形状は、これまでに紹介してきたスズキ目スズキ亜目の「魚のサカナ」のごく一般的なものであるようにも思われるが、紹介済みの標本1つ1つの形状と比較してみると、実は「酷似」したものがなかったのは正直驚きであった(中ではイシダイのものに最も似ているような印象を受ける)。肩甲骨の中央付近に比較的大きめの肩甲骨孔が開いている。また「元禄鯛のゲンロクダイ」では、烏口骨本体と『嘴』部の付け根下縁が湾入しないが、この特徴はスズキ目スズキ亜目の「魚のサカナ」の中では比較的珍しく、現時点で確認できるのはヒメジ科アジ科のものなど一部に限られる(ただし後者はそもそも「魚のサカナ」全体の形状が大きく異なるので「この特徴を共有している」と言って良いのかは疑問)。烏口骨の『背鰭』部分はかなり高く、その前縁は垂直方向に直線的。また先端は鋭角に尖る。

烏口骨『背鰭』部分を標本の上側から見るとフエダイ科フエフキダイ科の「魚のサカナ」でも見られたように、うねるように大きく湾曲している(写真上右)。



特徴的な体色・体型から、一般向けの魚類図鑑との比較でもゲンロクダイであると思われたが、念のため「日本産魚類検索 第2版」のチョウチョウウオ科の検索キーを辿り、1)側線は背鰭基底後端付近で終わる(尾鰭基部までは達しない/写真下段左の青矢印)、2)背鰭は11棘21軟条(写真中段右)、3)背鰭中央部は著しく高くない(写真中段右)、4)臀鰭は3棘17軟条、5)体形は不等辺四角形(楕円形ではない)、6)眼上部に暗色横帯がある(写真中段左)、7)背鰭軟条は伸長しない(写真下左)、8)体側に顕著な暗色斑も白色斑もない、9)尾鰭根元に褐色横帯がある(写真下段左)、10)体側に多くの「く」の字状斑がない、11)腹鰭は一様に暗色(写真下段右)、12)体側に幅の広い2本の褐色横帯があるなどの形質から、ゲンロクダイであると判断。背鰭軟条にある白く縁取りされた黒点(写真下左)も特徴的である。他のチョウチョウウオ科の魚同様に側扁する(=左右から押しつぶしたように平たい/写真下右)。ちなみにゲンロクダイは、チョウチョウウオ科の魚としては唯一(恐らく)となる本州日本海側にも生息する種であるとのこと。

2012年8月に、愛知県三河一色さかな村にある「つな路」の店頭に置かれた仕分け前の箱から、本稿のゲンロクダイ、20cmクラスのカゴカキダイを選び、更にオオクチイシナギの幼魚を「おまけ」に付けてもらって3匹まとめて50円(!)で購入。水族館の熱帯魚水槽などではしばしば見かけるゲンロクダイであるが、その食味に関しては、ネット検索してみても「長崎では食用」という記述が出てくるだけ(ただし長崎で本当に食べられているという「確証」は見つけられなかった)で、実際に食した上での『感想』はほぼゼロ。ちなみに某有名魚サイトでも「一般に食用としない」という記述のみで、筆者が見つけた唯一の例外が、静岡県沼津市にある橘水産のサイト中の「駿河湾の魚 今日の一干」というコーナーで紹介されている『ゲンロクダイ干物』という記事。ただしこの記事からもゲンロクダイの食味は全くイメージできない、、、

ということで、今回はしばらく冷凍保存したものを塩焼きに。少なからず恐れていた「くせ・えぐみ・磯臭さ」の類いは全く感じない。身質は悪くなく、水っぽさも、逆にパサつき感もない。骨からの身離れは良く、また小骨などは全く気にならない。身を口に含み咀嚼していると確かな旨味が出てくるが、含まれる量は多くはないので正直少々物足りない感も。ただ決して不味い魚ではない。筆者の総合評価としては「普通に美味しく食べられる魚」といったところ。あと今回は「万が一」も考えて生食はしなかったが、もし次回出会うことがあれば刺身も試してみたい。


余談ながら:本稿をもって、本『図鑑』も遂に「350エントリー」に到達しました(【番外編】除く)。これからもマイペースで更新を続けて行きますので、のんびりお付き合い下さい。