新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

103: ヒラマサ

スズキ目スズキ亜目アジ科ブリモドキ亜科ブリ属
学名:Seriola lalandi Valenciennes
英名【注】:Goldstriped amberjack [原], Yellowtail amberjack, Yellowtail Kingfish, California Yellowtail, North Pacific Yellowtail, Great amberjack, Albacore etc.

北海道産(少々意外な気もするが南北海道には回遊する模様)の全長約46cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。

「平政のヒラマサ」は、烏口骨上方の『背鰭』部分が三角形に比較的大きく立ち上がり、そこから『嘴』の先端に掛けて鋭角的に長く伸びることなど、やはり同じアジ科ブリ属に属するブリカンパチのものに非常に良く似ている。ただし、1)肩甲骨の先端下部が3種の中ではもっとも鋭角的、2)烏口骨本体下部とカーテン様部分の間にある湾入部はカンパチのものより浅い、3)烏口骨上方の『背鰭』部はブリほど丸みを帯びない、4)烏口骨の『嘴』部から付き出したキール部分の先端がブリのものほど長くないなど、些細な相違点であれば何とか数個挙げることはできる。

ちなみにこのエントリーの初稿で紹介していた「平政のヒラマサ」(下記参照)とは異なり、今回の標本では『背鰭』部の前縁はほとんど抉り込まない。つまりこの部分の形状の違いは「種内における個体差」と考えるべきもの。



「日本産魚類検索 第2版」を開き、1)腹鰭がある、2)背鰭棘部は皮下に埋没しない、3)側線に稜鱗(ゼイゴ)がない、4)背鰭軟条部は臀鰭軟条部始部よりもはるかに前にある、5)背鰭棘間は鰭膜で連続する、6)尾柄部に小離鰭がない、7)体側に暗色の横帯がない、8)背鰭棘部は淡色、9)体側後半部に暗色斜走帯がない、10)吻は尖る、11)眼の中心は吻端を通る線上にある、12)眼を通る暗色斜走帯がない(写真中段左)、13)上顎上後角は丸い(写真中段右)、14)胸鰭は腹鰭より短い(写真下段左)などの形質を確認してヒラマサであると判断。

ヒラマサの外見はブリに非常に似ているが、上の形質13と14(ブリは上顎上後角が角張り、胸鰭と腹鰭の長さはほぼ同じである)で区別できる。ヒラマサの体の方が側扁する(=ブリよりも平たい)のも特徴の1つ。また本稿の個体程度のサイズに限って話をすれば、ヒラマサの尾鰭下葉先端には比較的広い鮮黄色域があり、また体側の黄色縦帯がブリよりも明瞭な傾向があるように思われる(詳細は本稿の下の方にまとめたのでご覧下さい)。

2012年6月に八王子総合卸売センター内、高野水産で購入(当日はキロ800円/1.01kg)。3枚に下し、厚めに切った刺身に。しっかり締まった身には程良い歯応えがある。特筆すべきは身に含まれる大量の旨味で、咀嚼していると口の中に溢れてくる。脂の乗りも良いため(特に腹側)、同時に甘みも感じる。何時食べても「さすがの美味」としか言いようがない。アラは潮汁に。しばらく炊いてたっぷり汁の方に旨味甘みを出した後も、身にはまだ旨味がたっぷり残っている状態。しみじみ美味い。刺身を数切れアツアツご飯の上に乗せ、その上から潮汁を掛けた「茶(出汁)漬け」を口にした中学生の息子、眼を真ん丸にして「美味すぎる、これ」。一般的に「ブリよりヒラマサの方が美味い」とされるが、筆者もこの意見には同意する(ただしあくまで比較の問題であって、ブリの美味さを否定するものではないので念のため)。


【注】英語版Wikipedia"Yellowtail amberjack"の項には、Seriola lalandiは3つの亜種、the California yellowtail:Seriola lalandi dorsalis, the southern yellowtail/the yellowtail kingfish(in New Zealand and Australia):Seriola lalandi lalandi、そして the Asian yellowtail:Seriola lalandi aureovittaに分類可能との記載があるが、現在まで「科学的に」この3亜種をサポートする論文/データは出ていないはず。

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【参考】ヒラマサとブリの見分け方

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鮮魚店の店頭や釣り場などで最も簡便に両者を見分ける方法とされるのは上顎上後角の形状(上顎の骨の最後部の上部)。ヒラマサではこの部分が曲線的で、ブリでは角張る(写真3段目左右の赤丸に注目)。ちなみに、この部分はカンパチでも丸く曲線的であるが、ヒラマサとカンパチでは体色や眼の位置(カンパチの体色は赤みが掛かりで、若い個体には眼を通る暗色横斜帯があり、眼の中心は吻端を通る線よりも上)が異なることで区別可能。

ヒラマサ(北海道産/全長46cm)
ブリ(千葉県銚子産/全長60cm)
全体像
頭部
吻部
胸部
尾鰭

両者のその他の「相違点」としては、ヒラマサの方が体高があるため、ブリの方が全体にほっそりと見える(写真1段目左右)。本文にも記した通り、ヒラマサの体の方がブリよりも平たく、体側にある黄色縦帯はより明瞭であることが多い。吻(特に上顎)の先端部から眼隔域にかけてのラインは、ヒラマサでは少々丸みを帯びるのに対し、ブリではより尖っているような印象を受ける(写真2段目左右)。頭部はヒラマサの方がコンパクトで、そのためか眼が頭長に比べて大きく見える。ヒラマサの胸鰭は腹鰭より短いが、ブリでは胸鰭と腹鰭の長さはほぼ同じである(写真4段目左右/この写真では少々分かりにくい)。また胸鰭軟条基部の上端はヒラマサの方が体側の黄色縦帯により近い(逆に言えば、ブリの方が黄色帯と胸鰭軟条基部上端がより離れている/写真4段目左右)。ヒラマサの尾鰭下葉先端には比較的広い鮮黄色域があることが多いが、ブリではこのようにならない(写真5段目左右の青矢印)など。ご参考までに。

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本エントリーの初稿で紹介していた全長約45cmの天然魚から摘出した「平政のヒラマサ」。烏口骨の『嘴』部は直線的。2010年5月に八王子綜合卸売協同組合内、望月水産で購入。

(2/6/13 全面改稿)