新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

139: イネゴチ

スズキ目カサゴ亜目コチ科イネゴチ属
学名:Cociella crocodilus (Cuvier)注2
英名:Spotted flathead [原], Crocodile flathead

体長約40cmの個体から摘出した左右の標本。射出骨付き。同じコチ科に属するマゴチのものと比べると、1)烏口骨の『嘴』部分がより直線的でスラリと長い、2)肩甲骨孔が小さい(そのため肩甲骨が比較的大きく見える)、などの大きな相違点がある。また写真左の右側の標本の烏口骨の『背鰭』に当たる部分に小孔が開いているが、反対側には孔がないので「稲鯒のイネゴチ」の特徴とは言えない模様。写真右は、写真左の左側の標本を裏側から撮影したものだが、全体的な印象は表裏でさほど変わらない。

全体像。背部全体に無数の円形黒斑が存在する。

この個体は、1)両眼間隔が狭い、2)頭部の棘は強い、3)両眼間隔および眼下隆起の棘が数えられるほどの大きさ(写真左)、4)眼下隆起線の棘が3本、5)吻長が眼径の1.5倍以下、6)第1背鰭縁辺部が暗色(写真右)、7)間鰓蓋部に皮弁なし、8)臀鰭の軟条数が11、であることからイネゴチであると判断。

愛知県一色漁港にある「三河一色さかな村」で購入。他の魚と一緒に「トレイ一盛り数百円」で売られていたもの。今回は天ぷらにしてみたが、旨味に欠け、率直に言って「残念な味」だった。ネットで検索すると「美味」と書いてあるページもあるので、もしかしたら料理法が悪かったか、鮮度落ちが非常に早いのかも知れない。


注2:「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」や「新訂原色魚類大圖鑑」では、イネゴチの学名が C. crocodila (Tilesius) 、ワニゴチの学名が Inegocia guttata (Cuvier) と掲載されている。それが、2009年に出版された以下の論文により、従来ワニゴチの学名とされていた Inegocia guttata (Cuvier in Cuvier and Valenciennes) が、イネゴチ C. crocodila (Cuvier in Cuvier and Valenciennes) のジュニアシノニムになった。またワニゴチは後に新種記載され、その学名が Inegocia ochiaii Imamura に確定した。

Hisashi Imamura and Tetsuo Yoshino, Authorship and validity of two flatheads, Platycephalus japonicus and Platycephalus crocodilus (Teleostei: Platycephalidae). Ichthyol Res 56: 308-313 (2009).

ところが、この記事執筆時点 (8/27/10) で FishBaseの Common name "Inegochi" のエントリー の "Synonyms" 欄を見てみると、Cociella crocodila はミススペリングであり、Cociella crocodilus が ICZN valid name (Accepted name) であるとされている。自分が理解した範囲では、どうやら「国際動物命名規約」(第4版 日本語版 [追補]のPDF版がこちらからダウンロード可能)の問題で、1814年(1812年というのは間違いらしい)に von Tilesius が長崎産の個体を観察してこの種を Platycephalus crocodilus として初記載した時に、種小名として使われた "crocodilus" が『同格名詞』に該当するため(元々はロシア語の名詞由来だから?)、種小名の語尾を属名 Cociella の性(女性)にあわせた "crocodila" に変化させずに、男性である "crocodilus" をそのまま使うべきということらしい(要するに、初記載時の Platycephalus crocodilus は名詞としては男性/男性、上記論文中の Cociella crocodila は女性/女性。本来は属名/種小名の性は一致させる必要があるのだが、種小名が『同格名詞』に該当する場合は、規約上は性を一致させる必要がなく、Cociella crocodilus のように女性/男性になってしまったとしても元々記載された時の種小名を使わなくてはならないということみたいで、、、この認識が正しくない場合は是非ご指摘ください)。ということで、詳細は完全に理解できていないのだが、本稿では一応 FishBase の表記に準じた。