新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

209: チョウセンバカマ

スズキ目スズキ亜目チョウセンバカマ科チョウセンバカマ属
学名:Banjos banjos (Richardson)
英名:Banjofish [原]

別名トゲナガイサキ。愛知県三河湾産の体長約17cmの個体から摘出した左右の標本。写真左の標本は射出骨付き。全体を見れば典型的なスズキ亜目の「魚のサカナ」の形であるといえるが、肩甲骨/烏口骨の大きさや形のバランスが良く、またスラッと直線的に伸びた烏口骨の『背鰭』から『嘴』部にかけてのラインは非常に格好良い。個人的に「お気に入り」の一つ。

また「朝鮮袴のチョウセンバカマ」と最も良く似た「魚のサカナ」をこれまで調製してきたものの中から強いて挙げるとすれば、イサキ科のセトダイのものになると思われるが、"Fishes of the World Fourth Edition"の"Family Banjosidae"(チョウセンバカマ科)の項を読んでみたところ、わざわざ「チョウセンバカマ(科)はイサキ科の魚に非常に似ている」と明記されていた。やはりそうなのか、、、と納得した次第。


チョウセンバカマ科の魚は、日本近海はおろか世界的にも1属1種ということで同定は非常に容易(ただし魚自体がそれなりに珍しい模様)。念のため、「日本産魚類検索」で挙げられている 1)主鰓蓋骨に棘なし(写真下段左)、2)上下両顎/鋤骨には歯があるが、口蓋骨にはないという2つの形質、および背鰭/臀鰭/胸鰭の棘・軟条数がチョウセンバカマのものと矛盾しないことを確認。側面から見ると眼の付近に特徴的な黒帯が2本存在するが、背側から見ると眼の直上にもう1本あり、計3本であることが分かる(写真下段右)。

チョウセンバカマの背鰭(写真左)および臀鰭(写真右)棘条数はそれぞれ「10」および「3」。臀鰭の第2棘が他のものより太いという形質は、以前紹介したカワビシャでも見られるもの。ただし両者の直接の系統関係を支持するデータは調べた限りなさそうなので、現状では単なる「偶然の一致」に過ぎない。

愛知県一色漁港にある「三河一色さかな村」で、他の魚と一緒に「トレイ一盛り数百円」で購入したもの。今回は刺身に。脂が乗っているということか、身は口の中でほろりと崩れる感じ。少なくともコリコリという食感ではない。旨味と、脂からくると思われる甘みは非常に多い。かなりの美味。

注:ネット検索すると、ダイビング系のサイトを中心に「旧称チョウセンバカマ/新称トゲナガイサキ」との記述が散見されるが、日本魚類学会の「日本産魚類の差別的標準和名の改名最終勧告」にこの魚はリストアップされていない(ちなみに「メクラ、オシ、バカ、テナシ、アシナシ、セムシ、イザリ、セッパリ、ミツクチ」の9つを差別的語とし、それらが付いていた標準和名が変更された)。また同学会の「魚類の標準和名の定義等について」では「日本産の魚類の標準和名は、原則として「日本産魚類検索: 全種の同定、第二版」(中坊徹次編、東海大学出版会、2000)を起点とする」とされている。以上の2点から客観的に判断すると、少なくとも学会的にはこの魚の標準和名は「チョウセンバカマ」で問題ないはず。本稿ではこれに準じたが、もし誤解があるようならばご指摘下さい。