新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

33: ユメカサゴ

スズキ目カサゴ亜目メバルメバル
学名:Helicolenus hilgendorfi (Steindachner and Döderlein)
英名:Hilgendorf saucord [原]

長崎県産の全長約32cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。「夢笠子のユメカサゴ」は、もうすっかりお馴染みのフサカサゴ科の「魚のサカナ」の基本形であるが、烏口骨の上方突起部(『背鰭』に相当する部分)の高さは低めいタイプ。肩甲骨前縁は比較的長細く突出し、肩甲骨孔は涙型で普通サイズ。この標本では第2/第3および第3/第4射出骨の接合部分下部が孔の中心に向かって棘のように垂れ下がっている。

本稿執筆時点(2012年10月)では、「日本産」のユメカサゴ属の魚は、日本沿岸各地に分布するユメカサゴ天皇海山(ミッドウェー海域)に分布するオキカサゴおよびニセオキカサゴの3種のみであるとされている。つまり産地が日本の本土沿岸であれば、現状ではほぼ自動的にユメカサゴであるとみなすことができる(ただし、後述するように将来的にユメカサゴは複数種に分けられる可能性もある。またニセオキカサゴに関しては、沖縄舟上海盆にも生息しているという報告があるが、「日本産魚類検索 第2版」p.1526を参照する限り京大の中坊徹次教授は懐疑的)。

またこれらユメカサゴ属3種の「見分け」に関しては、側線の上下に暗色縦線がなければユメカサゴ(ちなみに『日本産魚類大図鑑』および『新訂原色魚類大圖鑑』によれば、ユメカサゴの側線鱗数は約25~30[27~28]で、上顎前端には顕著な歯塊がない)、側線の上下に暗色縦線があるものでは、側線鱗数が50~55で、上顎の前縁に1対の歯塊が顕著に突出していればオキカサゴ、側線鱗数が31で、上顎の前縁に歯塊が突出しなければニセオキカサゴであるとされている。本稿の個体は、長崎産で、側線の上下に暗色縦線がなく、側線鱗数は28、上顎前方に歯塊はあるものの(写真上左)顕著に突出していない(写真下の上段左/吻端に注目)ことからもユメカサゴであることがほぼ確実であったもの。ちなみにユメカサゴは喉の奥が黒い(写真上右)ため、地方によっては「のどぐろ/のどくろ」とも呼ばれるが、日本海側の高級魚で一般に「のどぐろ/のどくろ」と称される標準和名アカムツスズキ目スズキ亜目ホタルジャコ科)とは遠縁の魚である。



念のため「日本産魚類検索 第2版」のフサカサゴ科の頁を開き、1)側線は側線有孔鱗で開口する、2)胸鰭に遊離軟条がない(写真下段左)、3)胸鰭も背鰭も普通の大きさ、4)胸鰭に欠刻がない(写真下段左)、5)背鰭軟条数は12(写真中段左)、6)頬(眼下骨系)に棘がない(写真上段左)、7)胸鰭上半分の後縁は浅く湾入する(写真下段左)、8)尾鰭後縁は浅く湾入する(写真中段右)、9)胸鰭腋部に皮弁がある(写真下段右)、10)側線の上下に暗色線がない(写真上段右)、11)長崎県産などの形質/産地から、ユメカサゴに辿り着くことを確認。

なお日本沿岸に生息するユメカサゴには、本稿の個体のように体側の横帯が不明瞭なもの/横帯がかなり明瞭なもの/更に体側に黒点が散らばるようなものなど、かなり大きな幅の『個体変異』が認められる(WEB魚図鑑「ユメカサゴ」を参照)。このため「ユメカサゴ」の分類に関しては『再検討』の必要があると考えられている(つまり本当は複数の種がいるのに、現在は「ユメカサゴ」という1つの種にまとめてしまっている可能性がある)とのこと。

2012年7月に八王子総合卸売センター内、高野水産で購入(当日はキロ1,300円/0.55kg)。この個体は塩焼きに。熱の通った身は繊維質で食感も良く、上品な旨味が含まれている。皮目の焦げた部分も香ばしい。美味。

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本エントリーの初稿で紹介していた体長12~3cmの小型個体(産地確認を失念)から摘出した標本。射出骨付き。2010年4月に八王子総合卸売センター内の高野水産で購入(当日はキロ800円/約10匹で0.44kg)したもので、この時は、頭を落として唐揚げにしたが、身質も良く旨味もあって美味。

(10/04/12 全面改稿)