新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

36: クロメバル

スズキ目カサゴ亜目メバルメバル
学名:Sebastes ventricosus Temminck and Schlegel
英名:Darkbanded rockfish [原] (但し「メバル」1種とされていた時期の英名), Black rockfish

新潟産の全長約20cmの雌個体(腹の中には仔魚多数)から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。「黒目張のクロメバル」は典型的なフサカサゴ科の「魚のサカナ」の形状で、極近縁種のアカメバルのものに酷似するが、この標本では第2/第3射出骨の接合部分下部のみが孔の中心に向かって棘のように垂れ下がっている。また烏口骨の『背鰭』部分(上方にある三角形の突起部)が比較的高くなるのはメバル属の魚の「魚のサカナ」に共通してみられる形質。



2008年に元来メバルSebastes inermis Cuvier)とされていた魚が単一種でないことがDNA解析で確認/報告され、アカメバル(胸鰭軟条数が普通は15本)/クロメバル(胸鰭軟条数が普通は16本)/シロメバル(胸鰭軟条数が普通は17本)の3種に再分類された。そこでまずは2000年発行の「日本産魚類検索 第2版」で1)側線は溝状でない、2)胸鰭に遊離軟条がない(写真中段右)、3)胸鰭も背鰭も普通の大きさ、4)胸鰭に欠刻がない(写真中段右)、5)背鰭は13棘14軟条、6)頬に棘がない、7)胸鰭上半部の後縁は丸い(写真中段右)、7)眼窩下縁に棘がない(写真中段左)、8)弱い頭頂棘がある、9)下顎は著しく前に突出せず、その先端は尖らない、10)尾鰭後縁は2叉する(少なくとも丸くない)、11)主上顎骨には鱗がある、12)涙骨に顕著な2棘がある(写真中段左)、13)胸鰭は17軟条(写真中段右)などの形質から「メバル」に辿り着くことを確認。

この先は「アカメバル」のエントリーでも使った「チェックシート」(原著論文のKai & Nakabo, 2009の記載に基づき観察/計測すべき形質をまとめたもの)で判定。写真下段左の緑矢印は肛門の位置を示している。

 本稿の「メバルアカメバル
S. inermis
クロメバル
S. ventricosus
シロメバル
S. cheni
体色黒銀色で、背側は緑色が掛かる×背側は暗赤色〜淡褐色、腹側は白っぽい○黒銀色(背側は緑色が掛かる)×背側は金〜淡褐色、腹側は褐色または白色
背鰭13棘14軟条
全体が黒色、軟条部の付け根側は薄い
○13棘13~15軟条
×褐色か暗褐色、軟条部の上半分は橙色が掛かる
○13棘14~16軟条
○全体が黒色、軟条部はわずかに薄い
○12~13棘13~16軟条
×暗褐色、棘条部は多少白い
胸鰭17軟条(写真中段右)
黒色
長さは普通で肛門を越えない(写真下段左)
×14〜16軟条(普通は15)
×暗赤色か橙色
×長く、肛門を越える
△15〜17軟条(普通は16)
○黒色
○長さは普通で肛門を越えない
○16〜17軟条(普通は17)
×赤褐色から淡褐色
△短く、肛門に達しない
腹鰭1棘5軟条
白っぽい、先端部は暗い
先端は肛門を越える(写真下段左)
○1棘5軟条
×前部は暗赤色、後部は白い
○比較的長めで、先端が肛門を越える
○1棘5軟条
○白または淡灰色、後部先端は暗い
△長さは普通で先端は肛門に届かないこともある
○1棘5軟条
×白褐色(時に白色)、後部は黒ずむ
×長く、先端は臀鰭起部を越える
臀鰭3棘8軟条(写真下段右)
黒色、軟条部は多少淡い
△3~4棘6~8軟条(普通は3棘7軟条)
×暗赤色か橙色で、棘条部と先端部に赤みが掛かる
○3棘7~8軟条
○黒色、軟条部は多少淡い
○3棘6~9軟条(普通は8軟条)
×暗褐色で基部はより暗い、軟条部は多少淡い
尾鰭黒色、後半部は多少淡い×褐色か濃褐色、軟条部は赤や橙色が掛かる○黒色、周縁部は多少淡い×褐色、周縁部は白い
有孔側線鱗数45×36~44(最頻値40)○43~49(普通45~46)○37~46(最頻値41)
鰓耙数35○31~37(最頻値34)○35~39(普通36~37)○32~37(最頻値34)
体側の横帯不明瞭○不明瞭○不明瞭×明瞭(ただし死後は淡くなる)
その他角膜の周縁が黒色(写真中段左)×角膜の周縁が赤または橙色○角膜の周縁が黒色×角膜の周縁が茶色
【表中の記号】○:範囲内/当てはまる; △:範囲内だが頻度が低いもの/当てはまる可能性あり; ×:範囲外/当てはまらない

上の表からも、本稿の魚がクロメバルであることは一目瞭然(ただし今回のように「典型的」な個体の場合は、体および各鰭の色からだけでもクロメバルであると判断可能)。ちなみにこの個体の胸鰭軟条数は上記した通り17本であるため、「胸鰭軟条数」だけで魚種を判断していたら「シロメバル」としてしまうところ。要注意。

2011年12月に角上魚類日野店で購入(当日は250円/匹)。 今回は塩焼きに。身質も良く上品な旨味を感じる。身離れも良く美味。他にも刺身、煮付け、マース煮、唐揚げ、アクアパッツアなど、和洋問わずどんな料理にしも非常に美味しい魚。


【注】:Yoshiaki Kai and Tetsuji Nakabo, Taxonomic review of the Sebastes inermis species complex (Scorpaeniformes: Scorpaenidae), Ichthyol. Res., 55: 238-259 (2008).

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本エントリー初稿に掲載していた愛知県産(海釣りの獲物)の「黒目張のクロメバル」。ただし当時の「同定」はかなり甘かったため、アカメバルもしくはシロメバルのものである可能性は否定できない。


(2/16/12 全面改稿および写真追加)