新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

162: トビヌメリ

スズキ目ネズッポ亜目ネズッポ科ネズッポ属
学名:Repomucenus beniteguri (Jordan and Snyder)
英名:Kitefin dragonet [原], Tobinumeri-dragonet, Whitespotted dragonet, Black caudal dragonet

城ヶ島産シリーズ」第7弾。体長10cm強のオスの未成魚(下記参照)から摘出した左右の標本。ネズッポ科の「魚のサカナ」の基本形で、上の写真では分かりにくいが烏口骨の『嘴』先端部は三角形に広がっている。以前紹介したネズミゴチのものとは異なり烏口骨の上部突起(『背鰭』)の根元に明瞭な小孔はなく、全体的にはよりセトヌメリのものに近い印象を受ける。ただしネズミゴチのものと同様、同一個体から摘出した標本にも拘らず、肩甲骨孔の形が左右で少々異なっている。



ネズッポ科の魚を同定するためには「オス/メス」の形の違いに加え「成魚/未成魚」の違いも考慮しなくてはならず、以前から書いているようにかなり難しい(自分で釣り上げたものならともかく、鮮魚店の店頭で1匹ずつ背鰭/尻びれを広げる訳にもいかないし、、、)。今回は「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」p.1138の解説を参考にして、まずは1)肛門付近の形状がオスであること、2)眼下管の外側に1分枝がある(写真中段左の赤矢印)ことから、ネズミゴチ/トビヌメリ/セトヌメリの内の何れかであることを確認。この個体では第1背鰭のどの棘も糸状に伸びていなかった(写真中段右/後半部に白い縁取りのない黒斑がある)ことからネズミゴチである可能性も考えられたが、3)臀鰭に特徴的な黒褐色の縞模様があり、かつ体下部の白斑が円形である(写真下段左)こと、4)第2背鰭にほぼ2列の小暗色斑がある(写真下段右)ことなどを根拠に「トビヌメリの未成雄」であると判断した。間違っている場合は是非ご指摘ください。

注:「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」や「新訂原色魚類大圖鑑」では、トビヌメリの学名として Repomucenus beniteguri (Jordan and Snyder) が掲載されているが、FishBase によると現在この名前は Callionymus beniteguri Jordan and Snyder のシノニム扱い(ちなみに「Common name」欄にも "Tobi-numei" あり)。本稿では「日本産魚類検索」などの記載に則り、トビヌメリの学名として Repomucenus beniteguri (Jordan and Snyder) を採用した。またトビヌメリの学名(種小名)が『ベニテグリ』(現在の標準和名ベニテグリは、ネズッポ科の別の魚で体色が赤いもの)であるという事実は、ネズッポ科の同定に関する「混乱の歴史」を暗示しているようでなかなか興味深い。

ちなみに FishBase で Common name:"Seto-numei"(セトヌメリ)のエントリーを確認してみると、その学名は Repomucenus ornatipinnis (Regan) となっており、逆にこちらでは Callionymus ornatipinnis Regan がシノニム扱い、、、と、ネズッポ属の学名 Repomucenus / Callionymus の適用に関してはまだまだ混乱があるように思われる。