新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

165: ゴンズイ

ナマズゴンズイゴンズイ
学名:Plotosus japonicus (Yoshino and Kishimoto)
英名:Striped catfish eel [原]

これが第8弾かつ最後の「城ヶ島産シリーズ」。体長約15cmの釣魚から摘出。以前紹介したナマズのものと同様に、肩甲骨/烏口骨/中烏口骨/射出骨/擬鎖骨がほぼ完全に融合して一つの「骨の固まり」になっているため、どの部分がどの骨由来なのかを区別するのが非常に難しい、、、

そこで参考になりそうな文献を検索した結果、ミナミゴンズイPlotosus lineatus/後述)の頭部の骨と筋肉を詳細に観察した下記の〔文献1〕がヒット。残念ながら「魚のサカナ」部分はあまり詳細でないが、論文中の図表(Fig.9)と本文の記述を参考にして、ある程度の骨の区別は付けられたので以下に解説する。ただし、間違いや勘違いをまだ含んでいる可能性はあるので念のため。ちなみに上の写真の骨は少々紫掛かっているが、他の複数個体から摘出した「権瑞のゴンズイ」は総じて白色だった。

ゴンズイの「魚のサカナ」を体内の位置と同様に並べ背中側から見たところ。写真の上側がゴンズイの頭方向。「骨の固まり」の平たい部分中央を走る筋(青点線で示した)が存在するが、これが擬鎖骨と肩甲烏口骨(文字通り肩甲骨/烏口骨が融合したもの。論文中では "scapulo-coracoid")の縫合部であり、青点線の下側が肩甲烏口骨。つまり写真中央のギザギザ部分は烏口骨の先端(この図鑑で普段は『嘴』と書いている部分)ということになるが、体内ではこのギザギザ部分で左右の「骨の固まり」が組み合う。ちなみに毒棘(後述)を含めた胸鰭は、赤矢印の位置に写真の斜め下、外側方向に向かって結合するが、この部分の骨は写真前面方向に立ち上がっており、胸鰭との結合部は骨の裏側になるためここでは見えない。

上の写真の右側の標本を裏側から(魚体で言えば腹側斜め後方から、「魚のサカナ」的には前方斜め上側から)見たところ。胸鰭の毒棘/軟条が結合していた赤矢印で示した部分が射出骨に相当することはほぼ確実。また腹側にも上述した擬鎖骨と肩甲烏口骨の縫合線と思われる筋が観察できる(青点線)。ほとんどの「魚のサカナ」の烏口骨上方には突起状構造(『背鰭』に相当する部分)があるが、「権瑞のゴンズイ」では黄丸で囲った突出部分が位置的にもそれに相当するのかもしれない。

「魚のサカナ」を真横から観察。赤矢印/青点線/黄丸に関しては上記参照。この位置から見ると、中烏口骨が良く発達して頑丈なアーチ状構造を作っているのが良く分かる(橙矢印/烏口骨との間隙を薄い骨が覆う形になっているので「テントもしくはタープ様構造」と言った方が良いかも)。また肩甲烏口骨先端部と擬鎖骨の縫合部と思われるラインも観察できる(緑点線)。

「魚のサカナ」の前方横側から観察。上述した肩甲烏口骨先端部と擬鎖骨の縫合部がはっきり観察できる(緑点線)。この方向から観察すると、中烏口骨のアーチが作る大きめの孔を通して『タープ』の下辺りにもう一つ小孔(緑矢印)があるのが見えるが、位置的に恐らくこれが肩甲骨孔であると推察。



釣り上げた直後のゴンズイは黒〜濃褐色の体色に黄白線が4本(左右各2本)入っているのが特徴だが、時間が経つと上の写真のように薄褐色に色褪せてしまう。口元の髭を見れば明らかにナマズの仲間。ご存知の方も多いと思うが、ゴンズイの背鰭および両側の胸鰭の第1棘条は非常に鋭利な毒棘/毒針になっており(写真下段赤丸部)、またその毒性は死んでも消えないということなので、生時はもとより、死んでからも取り扱いには要注意。筆者自身は刺されたことはないが、学生時代に夜釣りの同行者がゴンズイに刺されてしまい、一晩中車の中で唸っていたのは今でも忘れられない。ちなみにゴンズイの毒はタンパク質性なので、熱を通せば失活してしまうという話(あくまで伝聞だが)。

前述した通り、今回はヤリヌメリの強烈な臭いの餌食になってしまった可哀想な魚達の一つなので口にしていないが、鮮度の良いもの(可能ならば釣り場で毒棘と内臓の処理をしてしまうのがベター)が手に入ったら、その外見に怯むことなく「物は試し」で一度は口にして頂きたい魚。その溢れんばかりの旨味成分に驚くこと請け合いである。独特の香りがあることは否定しないが、客観的に言ってその身は非常に美味。定番は塩揉み(くどいようだが毒棘を除去してから!)&湯通ししてヌメリを落とした後に、カボチャと一緒に煮た味噌汁か、開いたものの蒲焼きになるかと思うが、ネット検索したところ、煮付け、干物、柳川鍋、唐揚げ、天ぷらなどの料理法でも美味しい模様。また死後時間が経つと皮を中心に生臭みが出てくるようなので、鮮度の良い内に料理してしまうことを強くお勧めする。


注:「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」や「新訂原色魚類大圖鑑」ではゴンズイの学名として Plotosus lineatus (Thunberg) が掲載されているが、2008年に出版された下記の〔文献2〕で、これまで1属1種と考えられてきた旧標準和名ゴンズイが2種に分離された。これまでゴンズイの学名として使われてきた Plotosus lineatus (Thunberg)は、新標準和名ミナミゴンズイとなった既記載種(沖縄などにも生息し、体長が極端に大きくなるもの)の学名になり、日本沿岸に普通に分布している本種は、標準和名はゴンズイのままだが、新種記載されて学名が Plotosus japonicus Yoshino and Kishimoto となった。

〔文献1〕C. Oliveria, R. Diogo, P. Vandewalle, and M. Chardon, Osteology and myology of the cephalic region and pectoral girdle of Plotosus lineatus, with comments on Plotosidae (Teleostei: Siluriformes) autapomorphies. Journal of Fish Biology 59: 243-266 (2001) (要旨はここで可読。PDFのダウンロードには要アクセス権)

〔文献2〕Tetsuo Yoshino and Hirokazu Kishimoto, Plotosus japonicus, a New Eeltail Catfish (Siluriformes: Plotosidae) from Japan. Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, Suppl., (2):1-11 (2008)(PDFはここからダウンロード可能)