新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

193: カガミダイ

マトウダイマトウダイ科カガミダイ属
学名:Zenopsis nebulosa (Temminck and Schlegel)
英名:Mirror dory [原], Silver dory, Nebulous zeid fish, Deepsea dory, Deepwater dory, Trawl dory

一色漁港シリーズ第2弾の第9回。体長約30cmの個体から射出骨付きで摘出した左右の「魚のサカナ」。同じ科に属するマトウダイのものと基本形は確かに似ているが、 1)全体に『体高』が高い、2)肩甲骨と烏口骨下部の軟骨の作るラインが直線的、3)射出骨の長さが明らかに短い、4)烏口骨下部の『キール』部分がより曲線的、5)烏口骨下部のカーテン様の部分が『嘴』の先端部まで伸びるなどの相違点があり、「鏡鯛のカガミダイ」の方が全体的にかなりがっしりした印象である。写真右は、写真左の右側の標本を反対方向から見たところの拡大図。少々見にくいが、烏口骨上方の突起(『背鰭』)部分の根元下方に小孔が存在する。


日本近海に生息するマトウダイ科の魚は4種のみで、更に背鰭棘先端が糸のように長く伸びるのはカガミダイとマトウダイの2種だけなので同定は容易。今回の魚は、1)眼の辺り(頭部背面)が湾入している(写真下段左)、2)体側中央に白で縁取られた明瞭な黒斑がないことからカガミダイであると判断できる。また「日本産魚類 全種の同定」には『同定の鍵』として挙げられていないが、カガミダイは腹鰭の先端部も糸のように伸びる(写真下段右)、、、としていたが、どうやら鰓膜が脆弱なだけだった模様。

愛知県一色漁港にある「三河一色さかな村」で、他の魚と一緒に「トレイ一盛り数百円」で購入したもの。胃の中には小型のオキトラギスが何匹か入っていた。少々鮮度が落ちていたので、今回は塩コショウしてソテーに。美味。一般にはカガミダイの方がマトウダイよりも安価のようだが、味はそれほど変わらないような印象(但し両者を並べて食べ比べた訳ではないので念のため)。

(01/02/2011 改稿)

【追記】「鏡鯛のカガミダイ」を初めて見た時、その全体的な形がフグ目フグ亜目カワハギ科のものと良く似ているように思われた(特に前後に細長い形や烏口骨の立派な上方突起部など)。そこでこの件に関して少し調べてみたところ、実は「ヒシダイ亜目・マトウダイ目・フグ目が姉妹群関係にある」とする報文(下の【文献1】)が存在していることが判明。更に、J.S. Nelson著の「Fish of the World Fourth Edition」(2006) の”ヒシダイ亜目”(Suborder Caproidae/かっては「マトウダイ目」とされていたが、同書を含め現在では「スズキ目」に分類されることが多い)の説明文(pp.440-441)にもこの論文が引用されていた、、、が、同書ではこの姉妹群関係自体に関しては懐疑的であり(下の【文献2】も参照)、また近年の分子系統解析のデータではこの姉妹群関係は全くサポートされていない(下の【文献3】など)。以上のことから判断すると、上記した「魚のサカナ」の形の相似は、現状では単なる収斂進化による偶然の産物と考えざるを得ないようだ。

【文献1】Rosen, D. E.. Zeiforms as Primitive Plectognath Fishes. American Museum Novitates, 2782:1-45 (1984). これが「ヒシダイ亜目・マトウダイ目・フグ目が姉妹群関係にある」という仮説を提唱した論文。PDFのダウンロードはこちらから。

【文献2】Tyler, J. C., O'Tool, B., Winterbottom, R.. Phylogeny of the Genera and Families of Zeiform Fishes, with Comments on their Relationships with Tetraodontiforms and Caproids. Smithonian Contrib. Zool. 618. 110pp. (2003). 「Fish of the World Fourth Edition」(2006) でも引用されている論文で、上記論文の仮説を形態学的に検証したもの(実際の論文ではp.29-35、PDFでは35-41ページを参照)。断定こそしていないが、基本的なトーンは『懐疑的』。PDFのダウンロードはこちらから。

【文献3】Miya M, Takeshima H, Endo H, Ishiguro NB, Inoue JG, Mukai T, Satoh TP, Yamaguchi M, Kawaguchi A, Mabuchi K, Shirai SM, Nishida M. Major patterns of higher teleostean phylogenies: a new perspective based on 100 complete mitochondrial DNA sequences. Mol Phylogenet Evol. 2003 Jan;26(1):121-38. 100魚種の完全ミトコンドリアゲノム配列を用い系統解析を行った論文(全文のPDFのダウンロードは要アクセス権)で、マトウダイ目(ヒシダイ亜目を除く)はタラ目と姉妹群であることを強く示唆している。とはいうものの、同論文ではヒシダイ亜目とフグ目(更にはアンコウ目も)が姉妹群であることも同時に示唆しており、この辺りの系統関係には興味が尽きない。