新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

211: オオクチイシナギ

スズキ目スズキ亜目イシナギ科イシナギ属注1
学名:Stereolepis doederleini Lindberg and Krasyukova
英名:Striped jewfish

一色漁港産「魚のサカナ」第3シリーズも、この10回目で遂に最終回。

通名イシナギ(かっての標準和名)、アラ、モロコ。地方名おいぼ(北陸地方)など。体長約22cmの小型個体(若魚)から摘出した左右の標本。「大口石投のオオクチイシナギ」は、三角形に近い肩甲骨と長方形に近い烏口骨本体がしっかりと結合しているため、全体的にがっしりした印象を与える。また肩甲骨と烏口骨の結合部付近と、両骨の下部は、まるで補強されているかの様に少し厚めになっている。肩甲骨孔は比較的小さめ。かつてはスズキ科に分類されていたオオクチイシナギだが、確かに『背鰭』部分の形などはスズキのものと似ているような印象。ただし全体の雰囲気(肩甲骨下部の湾入部を除く)が一番似ていると思われるのは、イサキ科のヒゲソリダイのものかも知れない。

斜め方向から見ると『背鰭』部分が弧を描きながら垂直方向に立ち上がっているのが分かる。


一般に「イシナギ」と呼ばれるのは本種。日本近海に生息するとされるイシナギ科の魚はオオクチイシナギとコクチイシナギの2種のみであるため注2、イシナギ科まで辿り着けられれば同定は比較的容易。1)上顎の後端が眼の中央以降(写真下段左)、2)側線有孔鱗数が57〜68(コクチイシナギは約80)という2つの形質でオオクチイシナギであると判断できる。今回は若魚なので特徴的な5本の白色縦帯(写真下段右)が確認できるが、大型個体(最大で体長2m/体重100kgにもなるらしい)ではこれが消える。

三河一色さかな村」で、オオクチイシナギ3匹と他の魚が一緒に盛られたものを、お得意の「トレイ一盛り数百円」で購入。今回は刺身と鍋に。刺身は、身質が良く旨味も多いので美味。面白いことに背身と腹身で食感が全く異なり、背身はしっとり、腹身はコリコリした感じ。鍋にしても美味だったが、多少パサ付く感も。


【注1】現在はイシナギ科として独立しているが、かつてはスズキ科に含められていた。

【注2】「遊遊さかな大図鑑」によれば、日本近海産のコクチイシナギ(本来はカリフォルニア〜メキシコに生息)は、実際のところたった1例が報告されたのみで、それ以降の報告はないという状態らしい。

【参考】オオクチイシナギの大型個体の肝臓には多量のビタミンAが含まれており(このPDF資料によると、肝臓100gあたり3~6gもビタミンAを含有しているらしい)、これを食べるとビタミンA過剰症(症状などはこちらを参照)になる危険性が非常に高いことが知られている。そのため「イシナギ」の肝臓は1960年の厚生省通達(昭和35年8月9日 公環発第25号「イシナギの肝臓の取扱に関する食品衛生法第4条の解釈について」:残念ながらネット検索では通達の「本文」まで到達できなかった)と、食品衛生法第6条第2号により食用禁止措置がとられている。オオクチイシナギの内臓、特に肝臓(キモ)は食べないように注意されたい。