新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

249: タカノハダイ

スズキ目スズキ亜目タカノハダイタカノハダイ
学名:Goniistius zonatus (Cuvier)
英名:Whitespot-tail morwong [原], Flagfish, Spottedtail morwong

神奈川県小田原産。全長約32cmの活け〆個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き(カサゴ亜目フサカサゴ科の魚のものに雰囲気が良く似ているが、系統関係からすれば「偶然の一致」である)。肩甲骨から烏口骨本体にかけての『体高』が低いことはイカナゴイカナゴスズキ目ワニギス亜目イカナゴ科)のものに似ているような印象も受けるが、こちらも直接の系統関係はない。更に烏口骨後縁下の突出部は、他のスズキ目の一部(スズキ亜目アマダイ科/フエダイ科/タイ科/イシダイ科/メジナ科、ベラ亜目、イボダイ亜目、ワニギス亜目、サバ亜目など)の「魚のサカナ」でも見られるが、「鷹之羽鯛(鷹羽鯛)のタカノハダイ」のこの部分は、肩甲骨と烏口骨の結合部下部が深めに抉れていることもあって『鎌形』(あるいは『イルカの鰭』風)により大きく突出しているように見える。

上の写真左側の標本を射出骨を外して両側から観察。烏口骨上方突起(『背鰭』)が太く鋭角的に尖るが、その形は面白いことに『鳥の嘴』風。その代わり(?)烏口骨の本来の『嘴』部は非常に太く、その先端は途中で急激に途切れるため全く『嘴』に見えない。また烏口骨の本体部から『嘴』部に向かう「キール」に相当する部分の表面と、『背鰭』部分の背側根元部分が平板上に立ち上がるのは独特(写真下参照)。

「鷹之羽鯛(鷹羽鯛)のタカノハダイ」を『頭』側から撮影。上記した「キール」に相当する部分(緑四角)と『背鰭』部分の背側根元部分(赤丸)が平板上に立ち上がっていることを確認出来る。ちなみに後者は『背鰭』部分自体ではないので念のため(第3/第4射出骨の間の孔から『背鰭』の先端が覗いているのに注目)。エントリー250の直前にこんな「予想外」の形に出会えるとは全く嬉しい限り。



日本近海に生息するタカノハダイ科の魚は、タカノハダイ/ユウダチタカノハ/ミギマキの1属3種のみ。「日本産魚類検索」の同定の『鍵』も、尾鰭が茶褐色で白色の小円斑がある(写真中段右/この個体ではかなり不明瞭だが)という形質を確認するだけで、タカノハダイであると判断できる。念のため「新訂原色魚類大圖鑑」に記載されている、1)唇が厚い、2)胸鰭下方の軟条は肥厚し長く伸びる(海底などでは、この長い胸鰭で体を支えることが出来るらしい)、3)臀鰭が3棘8軟条などの形質も確認。ただ一点おかしなところがあり、実はこの魚の背鰭は17棘33軟条。「日本産魚類検索」や「新訂原色魚類大圖鑑」によるとタカノハダイ科の魚の背鰭は、タカノハダイが17棘32条、ミギマキは17棘33軟条、ユウダチタカノハは17棘28軟条とのことなので、この魚がタカノハダイであるとすると、軟条が1本多い(=ミギマキと同じ)ことになる

小田原漁港朝市で購入(お代は1匹200円。ちなみに当日の我々の整理券番号は「81」で、係の方が「今日は多いなぁ」)。タカノハダイは多くの釣り人にとって「臭い」「不味い」の代名詞(「ネコマタギ」とも)のような魚であり、筆者自身も、寒い時期ならともかく、特に夏場のタカノハダイなんて食えたもんじゃないなんて話を釣りの先輩諸氏から幾度となく聞かされていた。ただこのネット全盛時代、「タカノハダイは臭いさえなければ美味い」という記述を散見するようになっていたのも事実で、一度自分の舌で確認してみたいと思っていたところ、小田原漁港朝市の木台の上に乗せられているのを発見。今回の魚は見るからに非常に新鮮で、活け〆のためきれいに血抜き処理もされていたが、何しろ6月も終わり頃に入手した魚、、、ということで、全く期待もせず取りあえず3枚下ろしにしてみたが、驚いたことに魚体に鼻をギリギリまで近づけてみても「臭み」を全く感じない。そこで今回は刺身に挑戦。口に入れると、コリコリした食感で、キメも細かい非常に優れた身質。今回は皮を引いたが、皮目を中心に程よく脂が乗っており、その脂から来る甘味をかなり感じる。旨味も多い。これまでに筆者が食べた刺身の中では、ツバメウオのものに近いように思われた、、、が、この例えではあまり参考にはならないか。とにかく今回のように「臭いさえなければ」という大前提は付くと思われるが、はっきり言ってかなりの美味。もちろん家族にも大好評で、あっという間に完食。「食わず嫌いはやっぱり損だな」と再認識した次第。


【注】この形質に関して、筆者は単なる「個体差」と考えているのだが、尾鰭の白色小円斑が不明瞭であることも含めて、タカノハダイとミギマキの種間雑種(ハイブリッド)の可能性を疑うべきなのだろうか?是非専門の方の意見を伺いたいところ。