新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

262: イラ

スズキ目ベラ亜目ベラ科タキベラ亜科イラ属
学名:Choerodon azurio (Jordan and Snyder)
英名:Scarbreast tuskfish [原], Scarbreast tuskfin

愛知県一色産の全長約25cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。「伊良/苛魚のイラ」は、これまで紹介してきたように多種多様な形が存在するベラ科の「魚のサカナ」の中で、スズキ亜目の「魚のサカナ」にあってもおかしくないような普通の形であるという意味においても、キツネダイのものに一番似ているような印象。特に肩甲骨の形は酷似する(ただし肩甲骨孔は少々小さめ)。この肩甲骨の形は、同じイラ属のシロクラベラのもの(肩甲骨の前縁が凹み、先端下部が鋭角的に突出する)とは大きく異なっているが、烏口骨の形状は逆にシロクラベラのものと酷似するというのも興味深い。写真左の2つの標本では、烏口骨の上方突起(『背鰭』)から先端(『嘴』)にかけての「背中側」に小孔が各2つずつ離れて存在していることが確認できるが、同サイズの別の個体から摘出した標本(写真右の拡大図)では、近接した3つの小孔を確認することができる。



特徴的な黒色斜帯からイラであることは一目瞭然ではあったが、念のため何時もの様に「日本産魚類検索 第2版」を開き、1)側線が分断しない、2)背鰭棘数が「13」、3)両顎前部に門歯状歯がない(写真中段左)、4)胸鰭下部軟条は伸長しない(写真下段左)、5)体側に顕著な横帯がない、6)背鰭軟条数が「7」(写真下段右)、7)上唇は外からは見にくい(写真中段左右)、8)眼の後縁から背鰭基部までの長さ(写真中段右の緑線)よりも、眼の前縁から口までの長さ(眼下骨幅/同青線)の方が短い、9)体側に白色鞍状斑がない、10)体側前半部に1黒色斜帯がある(写真中段右)ことを確認し、最終的にイラであると判断。

愛知県一色漁港にある「三河一色さかな村」で購入。同サイズ3匹で400円。今回は皮付きのブツ切りにして、煮すぎないように気をつけながら味噌汁に。臭みのようなものは全くなく、身質は程よい繊維質で悪くはないのだが、残念ながら全くと言って良いほど身からの旨味を感じない、、、今回直接味比べした訳ではないが、沖縄の三大高級魚の1つで同じイラ属のシロクラベラは言うに及ばず、一色で同じく「雑魚」扱いのテンス(体型の雰囲気が似ており同じベラ科だが、亜科のレベルで異なる)の方がよほど美味かったように記憶。鰓や目の色から判断しても、なかなか新鮮な個体であったし、汁の出汁の方に旨味が全部出てしまうほど煮ていないはずなのだが、、、実は10年ほど前に三崎漁港でイラを購入(この時は冬だったはず)し、煮付けにして食べた時にも「美味くないなぁ」と思った記憶があるのだが、筆者の中で「あまり美味くない魚イラ」のレッテルは残念ながら今回も剥がれなかった。ただし、ネット上には「イラは美味」という記述も散見されるので、もしかしたら鮮度、サイズ、季節、更には個体によっても味が大きく左右される魚なのかも知れない。また次の機会に。

ちなみに以下の文献(PDFのダウンロードはこちらから)によると、イラも雌性先熟の性転換を行う模様。
中園 明信、 Janny Dirk Kusen. イラの雌性先熟雌雄同体性(英文) 日本水産学会誌 57: 417-420 (1991).