新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

316: ホンモロコ

コイ目コイ科バルブス亜科注1タモロコ属
学名:Gnathopogon caerulescens (Sauvage)
英名:Willow shiner [原](FishBaseに英名表記なし)

埼玉県熊谷市妻沼で養殖された注2全長10cmの雄個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。中烏口骨付き。

写真上の右側の標本を拡大して両側から観察。「本諸子のホンモロコ」は、これまでに紹介したコイ目の「魚のサカナ」の中では、同じタモロコ属のタモロコではないかと思われる個体(リンク先の「タモロコ」タイプ。ただしこの時の同定は非常に甘い:記事参照)から摘出したものに最も似ているが、烏口骨の『嘴』部が非常に長く、スラリと伸びるのが特徴的。写真右では、肩甲骨孔の奥に伸びる中烏口骨が肩甲骨孔を塞いでいるように見える。

ちなみに「本諸子のホンモロコ」の肩甲骨孔は、調べた限り1つのみというのが基本。写真上右では肩甲骨の後方(烏口骨に近い方)にも小孔が見えるが、同一個体の反対側のものを含めた他の標本ではこの孔がないため、標本調製時に出来てしまったものである可能性が高いのでは?と推察している。

別の個体から中烏口骨および射出骨付きで調製した標本。この標本では烏口骨の『背鰭』部に小孔が開いている。ホンモロコの射出骨は比較的長めで、最後部の先端にある板状構造も細長い。またこの写真は標本に対して少々斜め上方向から撮影したものだが、先に紹介した写真では『針状』に見えた中烏口骨が、実際は『鎌形』の薄い平板状であることが分かる。



「日本産魚類検索 第2版」の「コイ科」の『同定の鍵』を辿り、1)背鰭の最長鰭条に鋸歯縁がない、2)臀鰭起部(写真下段左の青線)は背鰭基底後端(同赤線)より後ろにある、3)眼の上縁は吻端よりも上(写真中段左)、4)口にひげがある(写真中段左の赤矢印)、5)胸部腹面は有隣(写真下段右の赤丸)、6)背鰭前縁は軟らかく、先端は丸い(写真中段右)、7)胸鰭基底上方に暗色斑がない、8)体側の暗色縦帯は不明瞭(生時の様子は写真下)、9)頭部背面は丸い(写真中段左)、10)口ひげは瞳孔径より短い(写真中段左の赤矢印/タモロコでは口ひげが瞳孔径より長い)、11)喉部は角張る(写真中段左/タモロコでは丸い)、12)側線下方の暗色線は1本(タモロコでは1~3本)、13)第1鰓弓の鰓耙数は18(タモロコでは6~12)などの形質からホンモロコであることを確認。

一部の個体はまだ水槽で飼育中(2013年3月で飼育開始から満1年となったが、水槽に入れた5匹ともまだ元気に泳いでいる)。初日こそはそれなりに警戒していたが、その後はすぐに慣れ、市販の金魚用粉末飼料で問題なく飼育可能。側線下方の暗色線は見ての通り生時の方が明瞭。

2012年3月初旬に埼玉県熊谷市にある道の駅「めぬま」に併殺された「めぬま物産センター」で購入した『彩のもろこ』(ブランド化の基準をまとめたPDFはこちらから)。熊谷市妻沼の掛川養魚場が養殖したもので、酸素を入れたビニール袋に入れられて「活け」で販売されていたもの。一袋ざっと7~80匹ほど入って950円。まずは大きめの個体を選び、フライパンに敷いたクッキングシートの上で素焼きにしてから極少量の醤油を垂らした「焼きもの」に。内臓部分に苔っぽいような「風味」(敢えて「臭み」とは書かないが、連れ合いと息子はこの「風味」があまり得意じゃないとのこと)を多少感じるが、身自体には旨味も多く含まれており美味い。強いて例えれば、アマゴの塩焼きの味に近いか。比較的小型の個体は小麦粉を振って唐揚げに。揚げている時に立ち上る香りも素晴らしい。カラッと揚った時には上述した「風味」は完全に消え、旨味だけが全面に出てくる。こちらは家族にも大好評。非常に美味い。琵琶湖産の天然個体は今や「超高級魚」だが、今回の養殖魚とどのくらい味が異なるのかいつかは食べ比べてみたい。

写真上は、2011年7月に近江今津西友(にしとも)川辻店で購入したホンモロコの甘露煮で、品名表示は「もろこ煮」(当日はパック1,000円で購入したが、購入時期と価格から冷凍保存された養殖個体を使用しているものと推察)。この時も上記した独特の「風味」を感じたものの、この「風味」と内臓の苦みが冷酒に非常に合う。筆者のような左党には溜まらない味。

ちなみにホンモロコは特産地の滋賀県のレッドデータにおいて「絶滅危惧ⅠA類(CR)」に指定されている(こちらを参照)。



【注1】コイ科の分類体系は構築途上にあるため、今後の研究の進展によっては亜科名などが大幅に変更になる可能性も高いという話。

【注2】ホンモロコは本来『琵琶湖固有種』であるが、様々な湖沼への人為的な移植や、琵琶湖産の放流アユへの混入などによって「国内移入魚」として生息域が広がりつつあるとのこと。また上記した通り『高級魚』であるため、埼玉県や鳥取県などでは盛んに養殖が行われている。2010年のデータで生産量日本一の埼玉県におけるホンモロコの養殖に関してはこちらを参照。