新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

326: クサカリツボダイ

スズキ目スズキ亜目カワビシャ科ツボダイ亜科クサカリツボダイ
学名:Pseudopentaceros wheeleri Hardy
英名:Boarfish, Longfin armorhead, North Pacific armorhead, Pelagic armorhead, Slender armorhead (「新訂原色魚類大圖鑑」に英名表記なし)

「青森産」(下記参照)の体長約30cm(尾鰭の先端はカット済)の「ツボダイの干物」から摘出した左右の標本。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。後述するようにクサカリツボダイは非常に脂の乗った魚であるが、「魚のサカナ」の中にも大量の脂分が含まれており、固定中に少々黄変してしまったのが残念。さて「草刈壷鯛のクサカリツボダイ」は、一見すると何の変哲もない「魚のサカナ」にも見えるのだが、全体の形状で比較すると、これまでに紹介してきたものの中に「そっくり」なものが見出せないという、実は独特な形状。特に烏口骨の太めの『嘴』部分が大きく下方に湾曲するというのは、スズキ目スズキ亜目のものの中ではあまり見られない特徴である(湾曲の程度はそれほどでもないが、キントキダイ科のものなどでも見られる)。実際これまでに紹介した唯一の同科(カワビシャ科)の魚であるカワビシャのものと比べてもあまり似ていない。



この干物(写真は「開き」を元に戻して撮影)では、残念なことに背鰭/臀鰭の強い棘条がカットされていたが、幸いにも棘条の根元部分は残っていたために計数可能。また日本近海にはカワビシャ科の魚は4種しか生息していないため、このような状態でも同定は比較的容易。「日本産業類検索 全種の同定 第2版」を開き、1)背鰭は14棘8軟条で、棘状部だけで背鰭全体の半分以上を占める(写真下段左)、2)臀鰭棘数は4(写真下段右)、3)体高は低く体長の約34%(32〜37%)などの形質からクサカリツボダイであると判断した。また「新訂原色魚類大圖鑑」に記載されている、4)頭部は骨が露出して粗雑(写真中段左/英名通り『鎧』のようである)、5)両顎と前鋤骨の歯は絨毛状(写真中段右)、6)背鰭と臀鰭の棘条は強大で交互に片側にのみ隆起線がある(写真下段左右/棘条の位置がギザギザになっているように見える)などの形質も確認。また今回の魚の有孔側線鱗数は76。

八王子綜合卸売市場の興実水産で購入した「ツボダイの干物」(当日は700円/枚)。「青森産」と店頭では言われたが、クサカリツボダイの主な漁場は天皇海山で、日本近海における生息地でも房総半島以南であることから推察すると「青森の港に水揚げされたもの」と考えて間違いないと思われる(実際「産地表示」のガイドライン上は問題ないはず/要確認)。クサカリツボダイを原料にした「ツボダイの干物」自体は大量に流通しており、スーパーの干物コーナーなどでも常に見かける。ただ普通に売られているものは頭胸部が既に除去されており、今回のように頭付きのものはなかなか珍しいはず。さて今回の干物は、皮目を含めて非常に脂が乗っており、焼いてやると大変な量の脂が垂れてくる。身離れは悪くない。旨味もそれなりに含まれているが、やはり大量の脂の甘味の方が勝る印象。確かに美味いのだが、筆者自身の疲れた胃袋では最後は少々もたれた感も。