新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

31: ツクシトビウオ

ダツ目トビウオ亜目トビウオ上科トビウオ科ハマトビウオ属
学名:Cypselurus heterurus doederleini (Steindachner)
英名:Narrowtongue flyingfish [原]

地方名:アゴ(主にホソトビウオとの混称)、カクトビ(角トビ)/カクアゴ(角アゴ)/大目(山陰地方)など。三重県産の全長約28cmの雄個体(白子あり)から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。標本左の烏口骨の『嘴』部は少々欠損している。「筑紫飛魚/土筆飛魚のツクシトビウオ」は、トビウオ科の「魚のサカナ」の基本形といえるもの。ただし、1)烏口骨下縁の湾入部は浅い台形、2)烏口骨上縁は曲線的で『嘴』部に向かう手前部分が盛り上がる、3)肩甲骨孔は涙型、4)射出骨と『背鰭』の作る隆起は高く、大きく三角形に盛り上がるなど、幾つかの特徴を挙げる事は可能。



「日本産魚類検索 第2版」によると、日本近海には31種ものトビウオ科の魚が生息しているが、常識的に考えて鮮魚店の店頭などで計数するのが難しい(商品の魚をべたべた触られて嬉しい鮮魚店店主はいないはず)各鰭の軟条数や側線鱗数、更には魚体から取り出さないと計数できない第1鰓弓の鰓耙数などが「表徴形質」(要するに種の見分けに重要な『鍵』)となっていることが少なくないために、トビウオ科の同定は実はかなり厄介なもの。筆者自身の経験不足もあるが、例えば魚体全体の写真を見てこの科の魚種をパッと同定できる自信は全くない。ただ実際問題として、市場などでは魚種を区別することなく、全て「トビウオ」と表示されている場合がほとんどなので、プロでもほとんど見分けられない、もしくは見分ける必要がないのだろうとも思われる。ちなみにネット上の情報によれば、普通市場に出回るのはホソトビウオ/ツクシトビウオ(本稿)/ハマトビウオトビウオの4種類であるとのこと。

今回も「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」の同定の『鍵』を辿り、1)胸鰭が長く、その先端(写真中段右緑線)が臀鰭後端(同赤線)を越える、2)側線に胸部分枝がない、3)腹鰭の先端(写真中段右青線)が臀鰭起部(同黄線)を越える、4)臀鰭起部(写真中段右黄線)が背鰭第3軟条のはるかに後方にある、5)背鰭は13軟条、臀鰭は10軟条、6)胸鰭の上から1軟条のみが不分枝(写真下段左)、7)胸鰭鰭膜に明瞭な斑点なし(写真下段左)、8)背鰭に顕著な黒色域なし(写真中段右)、9)側線鱗数が52(少々怪しいが)、10)背鰭前方鱗数が34、11)下顎は上顎より前に突出しない(写真中段左)、12)胸鰭中央部に透明の斜走帯がない(写真下段左)、13)胸鰭の先端を含めた縁辺には狭い透明帯がある(ように見える/写真下段左)、14)第1鰓弓下枝の鰓耙数は17(確実に20以下/写真下段右)などの形質からツクシトビウオであると判断。

ツクシトビウオと、同時期に水揚げされるホソトビウオとの見分け方は「336: ホソトビウオ」のエントリーに詳しくまとめたので是非ご参照頂きたい。

2012年6月に八王子総合卸売センター内、高野水産で購入したもの(当日は珍しくキロ単価表示でキロ500円/ほぼ同サイズ3匹で約0.5kg)。今回はシンプルに塩焼きに。脂の乗りがさほどではないので、焼くと多少パサ付く感もあるが、さっぱりした中に少なくない旨味を感じて美味い。別の機会には大葉/ネギ/生姜/茗荷などの薬味をたっぷり振った刺身やなめろう、更にはサンガ焼きも試したが、どれも初夏らしい爽やかさで結構なもの。

別の機会に購入した福井県産のツクシトビウオの雌個体。繁殖時期に捕獲されたものの中には非常に肥えた雌個体が含まれている(写真左/まるでホソトビウオのように腹が丸くなる)が、当然その腹の中には大きな卵巣が詰まっている(写真右)。このようなトビウオ類の卵を塩漬け、もしくは醤油漬けにしたものがいわゆる「飛子(トビ子/とびこ/とびっ子)」である。


【注】本エントリーは、「魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑」の開設当初から「31: ツクシトビウオ / ホソトビウオ(未同定)」としていたが、両魚種であることが確実な個体から摘出した「魚のサカナ」が入手できたため、「336: ホソトビウオ」のエントリーを新規登録扱いとし、同時に本稿を「31: ツクシトビウオ」に変更した。

(7/25/12 全面改稿)