新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

222: サクラマス

サケ目サケ科サケ亜科サケ(タイヘイヨウサケ)属
学名:Oncorhynchus masou masou (Brevoort)
英名:Cherry salmon, Japanese salmon, Masu salmon, Satsukimasu salmon, Seema

通名ほんます(本マス)。降海型の個体を標準和名サクラマスと呼び、陸封型(河川型)で海に下りない個体の標準和名はヤマメとなる(つまり生物学的には「同種」だが、生態によって異なる標準和名を持つということ注1)。北海道根室産の全長55cmの天然個体から摘出した「魚のサカナ」。太くて立派な中烏口骨(写真右)を含め、基本形はサケ属の「魚のサカナ」に典型的なもの。烏口骨上方の突起部分(背鰭に相当)には小孔が2つ空いている。「桜鱒のサクラマス」が、系統的にも極めて近縁のアマゴのものに酷似しているのは予想通りだったが、1)肩甲骨の先端がより尖っている印象を受ける、2)烏口骨下側の湾入部がアマゴのものほど丸くない等の違いがある。ちなみに「桜鱒のサクラマス」は骨全体が脂分に非常に富んでおり、アルコール固定後でも手で触っているとベタベタするほど。右側の標本の中烏口骨先端部は、固定時にアルコールの水面から出ていたために、骨の中の脂が酸化して黄変してしまった注2

写真上の左側の標本を両側から観察したところ。写真右で肩甲骨/烏口骨を結ぶ軟骨質部分(まだ完全に乾燥していないので白く見える)が大きいことが分かるが、これもサケ科の「魚のサカナ」の大きな特徴。


何時ものように「日本産魚類検索 第2版」の『鍵』を辿り、1)頭部が側扁し、頭頂部が膨らむ、2)鋤骨・口蓋骨の歯帯は『小』字型(写真下段左/赤線)、3)体の背面に黒点が散在、4)尾鰭に黒点がない、5)頭部背面に小黒点がない(写真下段右)、6)体側に朱点がない(この形質でアマゴと区別できるが、成長した個体では確認しにくい模様)、7)北海道産の天然個体などの形質/産地から、総合的に判断してサクラマスとした。

八王子綜合卸売協同組合のマル幸水産で購入(当日はキロ1,500円)。富山名産の「ますの寿司」の原料として有名だが、最近では神通川で天然のサクラマスがほとんど獲れないために、北海道産の魚をメインに使っているとは良く聞く話(そもそもサクラマスでなく、ニジマスなど他種のマス類を使っているメーカーも、、、などという話もちらほら)。今回は3枚に下ろした後、一部は切り身にして塩焼きに。身はサケよりもしっとりしており、上品な旨味もあり非常に美味。またサクラマス寄生虫日本海裂頭条虫、いわゆるサナダムシ)を持っている可能性があるので、鮮魚の生食は避けるべき。寄生虫対策としては冷凍してしまうのが効果的なので、今回は-80度の超低温冷凍庫に数時間置き中心部まで完全に凍らせた後、更に家庭用冷蔵庫の冷凍室に3日間放置してから使用した。一部は半解凍してルイベに。多少クセのようなものは感じるが、旨味があり、また脂も乗っているために美味。残りは塩と甘酢で締めてから、手作りの「ますの寿司」風に。見た目は市販品には到底及ばないが(写真下)、自分の好みの締め具合や味つけの調節ができることもあり、非常に美味い。

注1:サケ科の魚には幾つかこのような例があり、他にはアマゴ/サツキマス(陸封型/降海型:以下同じ)、ヒメマス/ベニザケ、エゾイワナ/アメマスが挙げられる。
注2:今回はこの後、アセトンによる脱脂とオキシドールによる漂白も試してみたが、残念ながら特に中央部の黄変は食い止められなかった。

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別の機会に北海道産の全長約40cmの天然物(「定置網」表示)の抱卵した雌個体から摘出した射出骨付き標本。アルコール固定前。この写真では烏口骨上部の孔の開き方が少々異なっている(写真左)が、上部側から観察すると「網目」状になっている(写真右/ただし反対側の標本のこの部分は「網目」になっていなかった)。

2011年3月に八王子綜合卸売協同組合内の望月水産で購入したもの。